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強襲


襲撃者(微妙に強そう)
襲撃
戦闘省略

「なんだこいつ! なんでこんなに硬い?」

 影は素早く飛び退ると、一旦距離をとる。そこへ追い討ちをかけるように鋭い鉤爪がきらめく。

「チッ、捕縛の効果が切れたか。クソッ、そんなカチカチの食事なんかいらねーよ。歯が欠けちまうからな。それから……」

 影は捨て台詞を吐きながら闇夜へと消えていった。その逃げ足は速く、おかげで台詞の最後の方は良く聞こえなかった。

「どうやらグラトンではないようね」

 服についた土埃《つちぼこり》を落としながらメリルが近づいてくる。見ると手首の部分が赤くなっていた。先程の黒い手に絞められていたところか。

「ああ、このぐらいなんともない。それより、あなた見かけによらず強いようね」

 メリルがずいと○○に近づく。顔と顔の距離が近い。あらためてよく見ると、目つきは鋭いが幼さの残る少女のような顔。しかし、可愛いというよりは美人といった方が良いだろう。

「あなたのこと完全に信用したわけではないけど、今日のところは見逃してあげる。但し……今日のことは忘れろ」

 それだけ言うと、くるりと背を向けすたすたと去っていってしまった。
 最後の一言、そして、その時に一瞬だけ見せた凍てつくような視線が忘れられない。

「サテ……」

 ペーターがぴょんと飛び上がり○○の頭に乗る。小さいとはいえ機械仕掛け。頭にかかる重みは相当なものだ。それで○○は我に返る。

「あんた部外者だろう? さっきのグラトンとの戦闘にしても……聞いても答えないだろうが一応聞いておく。アウターズか?」

 今までとは全く雰囲気が違っていた。
 ○○には何のことかさっぱり分からない。どう反応するべきか迷っていると、ペーターは答えを待たずに更に続ける。

「ま、ここで暴れたりしないなら、どっちでもいいんだが。当面、監視はさせてもらう」

 ひょいと頭から降り、今度は○○の周りを囲うように歩き始める。

「どうせ行くあてもないだろうし、こちらも監視しやすくなるから、あんたもメリルと一緒に防衛学園に通え」

 防衛学園?

「あの対魔防壁のところにある戦士や術者を育てるための施設だ」

 ペーターが指差した先には巨大な壁があった。夜の闇でよく見えないが、どうやら街全体をぐるりと取り囲んで、何かから街を守っているようだ。その脇に壁より更に高い尖塔が建っている。鐘楼のように見えるが、壁の物々しさからして、監視塔を兼ねているのだろう。

「この街の若い連中はみんな通ってる。強制といってもいいな。寄宿舎もあるから、宿無しにはぴったりだろう。詳しいことはそのうち説明してやる。夜中にいつまでもウロウロしてると、さっきみたいに本物のグラトンを呼び寄せてしまうからな」

 そういうと、ペーターはピョコピョコと鐘楼がある方へと歩き出す。

「学校まで案内してやるからついてきな。それと、外から来たことは口外するな」

 ○○は言われるままについていくしかなかった。何もかもが判然としないが、現状ではこの奇妙なウサギについていって、はやく寝床にありつきたかった。

「まず前提条件。人類は滅亡寸前だ」

 ○○の前を歩いていた奇妙なウサギがいきなり突拍子もないことを言う。

「この世界のほとんどの領域はデモノイド──いわゆる魔物だな──に支配されている。この街──アーレイベルグっていうんだが──は人類最後の砦だ。で、デモノイドの攻撃から街を守るための兵士を育成するのが、今から行く防衛学園」

 エライところにきてしまったようだ。
 壁が近づいてくる。石造りのその壁の高さは優に20メートルを超えている。壁の向こう側がどうなっているのか、ここからではうかがい知れない。壁はひたすら長く、そのまま闇の中に消えている。
 その内側すぐ傍に壁よりも更に高い鐘楼が建っている。そして、その足元に幾つかの建物が密集していた。目的地はそこのようだ。

「マ、最後の街といっても見てのとおり結構デカイから、人一人増えても誰も気がつかないだろうよ。どこから来たのか聞かれたら、反対側の端っこからきまシタ、とでも言っておけ」

 ケケケケと嫌な笑い方をするペーター。

 しかし──
 ここまで滅亡寸前に追い込まれて何故未だ滅亡していないのだろうか。魔物がはるかに数で勝るならひ弱な人間の残党を捻り潰《つぶ》すなど造作もないことではないだろうか。
 などと○○が無言で思案をめぐらしていると、考えを見透かしたようにペーターが言う。

「デモノイドにも事情があるのサ。マ、細かい話はまたいずれするとして。とりあえず、入園手続きして部屋用意してもらうか」
 ○○達はいつの間にか鐘楼の傍にある建物の一つの前に着いていた。
 扉を開けて中に入ると、すぐ脇の机に突っ伏して居眠りしている女性が目に入った。受付嬢といったところか。……下敷きになっている書類が唾液《だえき》の浸食をうけている。

「ヘイ! ネーチャン! 起きナ!」

 ペーターが机の上に乗り、その女性の耳元で大声を出す。
 がばっと飛び起き、その勢いで座っていた椅子ごと後に倒れる受付嬢。
「あいた〜」と後頭をさすりながら椅子を起こす。そしてペーターをねめつける。

「なによも〜、まだ真っ暗じゃないの。て、あ」

 そこで初めて○○の姿に気づく。

「あ、う、えーと、何の御用でしょうか」

 ニコニコしながらそう言った後に「こんな夜中に」と一人ごちたのを聞き逃しはしない。

「新入りダ。なんか遠くから来て住む所も欲しいらしいから、寄宿舎の登録もヨロシク」

「遠くってどのへんですか?」

 反対側の端っこからきまシタと答える。

「……」

 あからさまに怪しがられている。

「ま、いいですけどね……。では、書類にサインを──」

 何故かびしょびしょの書類。
 慌ててそれを丸めて後へ投げ捨て、下の方から別の紙を取り出す受付嬢。

 ○○が書類にサインすると、「では、こちらへ」と奥へと案内された。こんなに簡単でいいのか、と思いつつその後をついていく。
 受付嬢の持つランプに照らされた廊下にはいくつもの扉がずらりと並んでいた。その一つに入る。中は机と寝台、鎧箱、クローゼット、武器立てがしつらえられた殺風景な狭い部屋だった。どうやらここで暮らすことになるようだ。

「では、細かいことはまた明日説明させていただきます(眠いし)」

 それだけ言い残して受付嬢は出て行ってしまった。

「オレサマもウサギ小屋に戻るゾ。明日起きたら、とりあえず『講義』を受けに行ってミロ。そこで学園生活の仕方を教えてくれるはずダ」

 扉ではなく窓から出て行くペーター。

 解決していない疑問は多々あるが、今はとにかく眠い。ゆっくり考えるのは明日以降にしよう。荷物の片付けもそこそこに眠りに就く○○であった。


─End of Scene─


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