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教会の一室 記憶喪失?


記憶喪失を装う

 実は、自分の名前以外なにも思い出せないんです―― と答えておくことにした。しかし、 よく考えるとこれは全くもって本当のことだ。

「うん。まあ妥当なところだね」

 ユルバン神父は柔和な笑みを浮かべたまま、ひとしきり頷いてみせた。

「妥当なところだね、じゃないですよ! 神父様!」

「今後の参考の為に教えておいてあげるけど、 レンツール共和国というのは僕らが今いるこの国の名前だよ。 だから君がレンツールから来た旅人なんてことは有り得ない。 これに気付かないということは、 記憶が欠如しているとしか考えられない」

「引っ掛け問題じゃないですか!」

(……成る程)

 危ないところだった。
 どうやら喰えないのはシスターではなく、神父の方だったようだ。

「まあ何にしろ無事で良かった。それではお元気で」

 どんな追及があるのかと身を強張らせていると、 神父はあっさりと○○に背を向け、扉に手をかけた。

「え? 良いんですか?」

 マリーに呼び止められ、神父が首だけで振り返る。

「何が?」

「だって、この方は何と言いますか、あからさまに怪しいですけど」

「教会は、不審者を捕らえて尋問する場所ではない」

「そうでしたっけ」

「そうだよ。僕が言うんだから間違いない。じゃ僕はこれで」

 神父が扉を開き、 振り返りながら空いている方の手で○○にバイバイをして見せた。
 マリーは肩をすくめて、こちらに向き直る。

「ええと、じゃ、人心地がついたら荷物を纏めて下さい。 あちらの方から外に出たら、すぐに街が見えますから」

 簡単な説明を残し、マリーも彼の後を追うように部屋を出て行った。
 残された○○は彼らの消えた扉を見つめ、大きく息をひとつ吐いた。

     ***

 ○○は早々に教会を後にした。
 外に出て初めて気が付いたが、既に陽は中天に差し掛かっている。 つまり、もう昼だ。正確な時間は判らないが、半日近く眠っていたことになるだろうか。
 外から見る教会はごく小さなもので、青い屋根からは鐘楼と思しき小さな尖塔が一つだけ出ている。
 周囲に他の建物はなく、教会は町の外れにぽつんと建っていた。 とは言っても、背後に森と荒野を背負っているというだけで、振り返れば町並は目と鼻の先に見えていた。
 ○○は教会に背を向けて町の見える方へと歩き出し――すぐに立ち止まった。  白い舗石の続く先には小さな民家が雑然と建ち並び、方々からは活気を感じさせる白煙が薄く立ち昇っている。 そして、路上には――。

(何だろう、あれは)

 奇妙な影が蠢《うごめ》いていた。
 全体としては薄い茶色の円筒に近いシルエット。腸詰めのようにも見える。 それが、大きな胴体に不釣り合いな三本の短い脚を器用に動かしながら歩いてくるのだ。
 生物、なのだろう。
 しかし、お世辞にも可愛いとは言えない外見だ。こんな生物は類似のものさえ見たことがない。
 謎の生物までの距離が縮まるにつれ、その茶色が皮膚の色ではないことに気が付いた。 一見しただけでは判りにくいが、良く良く見ると表皮自体は白みがかった半透明で、 茶色に見えるのは規則的に蠢く“中身”の色が透けているせいだと知れる。
 どう考えても化け物としか言いようのない、それは不気味な姿だった。
 これは多分、やるしかないだろう。
 ○○は深呼吸をして心身を引き締め、異形の生物と相対した。
 武器や荷物を没収されていなくて助かった。これがこの“本”における初めての戦い、 そして、この世界で生きていけるかどうかを確かめる、最初の試練となるだろう。

最初の試練

最初の試練


 〜戦闘省略〜

 戦闘に勝利した。

 奇怪な生物を打ち倒し、○○は肩で息をした。
 思えば、なんだか立て続けに妙なことばかりに遭遇しているような気がする。 殆ど寝て起きただけのはずなのに、無性に疲れを感じる……。
 ○○は精神的な疲労を引きずりながらも、再び歩き出した。
 記憶の中から神父の言葉を辿り、目の前にまで迫った町の名前を思い出す。
 ここは、レンツール共和国のゼネラルロッツ。
 ○○はようやくのことでその町に足を踏み入れた。これからが本当の始まりだ、と自分に言い聞かせながら。

     ***

 町へと歩く○○の後姿を見送ってから、マリーは教会に戻った。

「あのハギス、もしかして神父様の手先か何かですか?」

「そんなばかな。ただの野良ハギスだろう。君の思考は変な方向に跳躍力があるなあ」

 ユルバン神父はあきれた様子でそう言った。

「ハギスの姿に驚いてたみたいですね」

「まあ、見たことが無ければ驚くだろうね」

「つまり――」

 何か言いかけたマリーの言葉を、ユルバン神父は片手を上げて制した。

「どこか遠くの国の人か、記憶喪失か、という可能性が高いね」

「え、でも」

「妙に突っ走るなぁ。流石は暴走シスターの異名を欲しいがままにするマリー・ネックベット。又の名を、教会の虎」

「呼ばれてません! 茶化さないで下さい」

 マリーは神父をにらみつけ、頬を膨らませて見せてから、ふと咳払いをして真面目な顔に戻る。

「……“介入者”かも知れません」

 小声でそう告げたマリーを見て、ユルバン神父は僅かに口の端をほころばせた。

「そういう可能性もある。だけど、どっちだって良いじゃないか、そんなこと。介入者が入ってきたとして、 それを探すのは神様――サヴァンの仕事だろう? もっとも、サヴァンが実在するなら、の話だけど」

 ユルバン神父はそう言って、背後にある三連ステンドグラスを見上げた。
 彼の視線の先にある、鮮やかに色分けされた繊細な装飾硝子の窓。その中心には本と天秤を手に持った賢者、 サヴァンと呼ばれる存在の姿が描かれていた。

ーEnd of Sceneー


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