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暮らしの良し悪し


「そういえば、●●さん」

 丸テーブルを囲う四脚の椅子の一つに腰掛けて、暢気にくつろいでいた●●は、 両手にソーサーを一つずつ持って戻ってきたツヴァイの声に顔を上げる。

「今、“円環の広間”から“仮記名”が出来る二つの世界についてですけれど、 ●●さんにとって、どちらが暮らしやすそうでしたか?」

「…………」

 その問いに、●●は渋い顔で暫し黙り込む。
 どちらが、と言われても、まだ片方の書の中にしか入った事が無いのだが。

「あら? てっきり、もうどちらの世界も経験されているものだと思ってましたけれど」

 ツヴァイはそういって、音も無く●●の前にソーサーの一つを置く。 上に乗せられた白い陶器の中には薄い橙赤色の液体が微かな湯気を立てつつ揺れて、 爽やかな香りが●●の鼻腔をくすぐった。

「確か、同期が安定しているのは“サヴァンの庭”と“ラストキャンパス”だったかな。 ラストキャンパスは兎も角として、サヴァンの庭の方はそう問題のない世界の筈なんですけれど」

 言いつつ、ツヴァイは残るソーサーを手にしたまま●●の対面に置かれた椅子に座る。
 ●●は目の前に置かれた器を手に取りながら、疑問を一つ。そのツヴァイの言い方だと、 何だかラストキャンパスの方に問題があるように聞こえるのだが。
 すると、ツヴァイは少し考え込むように視線を宙へと移して、

「どうでしょうね。ラストキャンパスは――人間を上回る勢力が表立って存在する世界ですから、 問題があるといえばあるのですが……あれはあれで情勢としては安定しているので難しい所ですね。 状況が状況ですから、立場を得るのは比較的簡単ですし、下手を打たなければ、案外と暮らしやすいのかもしれません」

 結局どっちなのか。
 ●●がくぴくぴと器の中の液体をあおりながら突っ込むと、ツヴァイは「んんー」と唸って、

「ヘンな事に首を突っ込まなければ大丈夫、だと思います」

 ……いや、それは当たり前じゃなかろうか。
 思わず●●はそう返すが、ツヴァイは「いえいえ」と何処か人の悪い笑み。

「そうでもありませんよ。群書によっては、普通に暮らす事すら難しい所や、 特殊なルール、タブーを持つ世界も存在しますから。といっても、そんな世界に“迷い人” の方が飛び込む意味もないのですけれど」

 そんな危険な世界にわざわざ入り込もうとするなんて、余程の好き者だろう。

「まぁ、偶にいらっしゃるんですけどね。そういう世界にも行ってみたい、という迷い人の方」

 ……物好きだなぁ。

「皆、この話を聞くとそう言います」

 ツヴァイはくすくすと小さく笑ってから、自分の手の中にある器を口元に運ぶと、一息。

「とはいえ、その中の半分くらいの方は、その後暫くすると『そういう世界にも行ってみたい』と仰いますけど」

 何でまた。
 話の流れが理解できず、●●は怪訝な顔でツヴァイを見るが、 彼女の方も何処かすっきりしない表情で少し首を傾げる仕草。

「皆さん理由は様々でしたので、何故と問われると答え辛いのですが――そうですね。 総合すると、その理由には“刺激”……という要素が多かったように思えます」

 刺激?

「はい。そういった危険な世界へと仮記名し、刺激を楽しむ。そんな感じでしょうか」

 やはり、物好きな話だ。
 ●●が改めてそう言うと、

「今の●●さんからすると、そうでしょうね。――●●さんも、そういった物好きにならないよう、気をつけてくださいな」

 そういって笑うツヴァイの表情の奥に、寂しさのようなものが一瞬浮かんだように見えて、●●は眉を顰《ひそ》める。
 が、●●が何かに気づいたのを察したか、ツヴァイはごく自然な動作でテーブルに置かれた器を手にして、

「●●さん、お味の方は如何ですか? 今回は美味しく淹《い》れられたと思うのですけれど」

「…………」

 深く追う類の事ではない、か。
 ●●は一瞬でそう割り切り、さて彼女の問いに答えるべきかと、味わうためにもう一度器を手に取った。

―End of Scene―

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