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荒涼の船尾

 エルアークの後部。尾のような形を持つ小島は、中央島に広がる“木霊の霊園”や。 前部に浮かぶ小島よりもさらに秩序のない、半ば樹に占領されたような場所だ。
 地面となる部分の殆どは一本の樹で覆われており、その樹からさらに無数の樹が、 まるで宿り木のように生え伸びている。
 そんな中に、ぽつんと。
 渦巻く木々の狭間。四角の石が碁盤目に敷き詰められた、空虚な広場があるという。
 そこに、“箱舟”の住人が一人。“鬼腕”と呼ばれる人物が暮らしているらしい。

 今回はそこへ入ってみるとしよう。
○○が木霊に行き先を告げると、ぴろぽんぽろぴんと独特の音を発しながら、 もこもことした黒い塊が元気良く跳ねていく。何度聞いても音がおかしいが、 その動き自体は何とも愛らしい。○○は癒された気分のまま、先行く木霊の後を追った。

***

 島と島を繋ぐ空中水路を経由し、後尾となる小島へと渡る。
 樹木で出来たでこぼことした地面を、ぴょんぴょんと器用に跳ねていく木霊。 その後を追って暫く進んでいくと、突然視界が開けた。

 森の中に不似合いな白色の石畳。規則正しく並べられた四角形の石によって作られた舞台には、 一人の大男が立っていた。
 その人物の姿かたちを一言で言い表すなら、人の姿を真似た竜。そんな言葉が最も近いだろうか。
 長く前へと伸び、大きく裂けた口。
 黒色の細かい鱗に覆われた全身。
 頭部に髪は無く、代わりに角が二本、側頭部から後ろへと突き出ている。
 両腕が少し他の部位と毛色が異なっており、鱗が無く、代わりにごつごつとした赤黒い皮膚。 その下には力強く脈動する筋肉、血管が見えた。
 石畳の中央に仁王立ちした男は、細く長く、口蓋から息を吸うと、

「破」

 吐く。同時に、その身が動いた。
 鋭く突き出される片腕。半身が開き、強く足が踏み出され、凄まじい音とともに石畳を打つ。
 空間にその振動が残る間に、竜神は緩やかに腕を戻し、同時に逆の足を上げる。 そして震えが完全に消え去る瞬間を見計らったように、上げた足を側面へと大きく突き出し、 胸の前で交差させていた両の腕を開いて、左右を鋭く突いた。
 そこからは、正に流れるような動き。
 身体を巻き、踏み込み、突き出し、飛び跳ねて、地を払い、蹴り上げ、肘を打ち、 身を反らせ、拳を打つ。時折腕を払ったり、身を動かす様は、まるで何かからの攻撃を避けているよう。

 大胆かつ繊細。
 優美でありながら苛烈。

 ○○はその迫力に圧倒され、半ば自失の状態で彼の動きを呆然と眺める。
 そんな大男の舞踏はいったいどれだけの時間続いていたのか。
 彼が全てを終えて元の姿勢へと戻り、大きく息を吐く。その様を見て漸く我に返った○○には、 全く判断できなかった。
 深く息を吐き終えると、竜人の男が姿勢を崩す。
仁王立ちから、緊張を解いた普通の立ち姿となった男は、軽く身体を解すように肩を回すと、

「それで。何用か」

 我知らず木の陰に隠れる形になっていた○○を鋭く見据えた。
 突然話しかけられ、○○はびくりと肩を揺らす。
まさか、気づかれていたのか。○○は驚きの感情を隠す事無く呟くと、 竜人の男は小さく鼻を鳴らして腕組みをする。

鬼腕

「気づかぬ訳がない。今のお前の態度は盗み見ではなく、 自分の“型”の邪魔をせぬように控えたものであると考えよう。――で?」

 その促しの言葉が何を求めてのものなのか。○○にははっきりと判断できなかったが。 しかし、取り敢えず自分の素性などは話しておいた方がいいだろう。
 ○○は簡単に自分の名前、ここにやってきた経緯等を話した。男は最後まで話しを聞くと、ああと頷く。

「新しい“迷い人”か。あの人形の娘から聞いてはいたが……成程、お前がそうなのか。 自分は“鬼腕”。実際に会うのを楽しみにしていた」

 人形の娘とは、多分ツヴァイの事だろう。
 にしても……彼女の話に、何か愉しまれるような要素でもあったのだろうか。

「無論だ。お前、“縁”が全く無いのだろう?」

 確か、ツヴァイがそんな風な事を言っていたのを覚えてはいた。
 彼らの言う縁とは、確か迷い人達がこうして箱舟へとやってくる前に存在していた本との縁、 みたいな話だったか。

「お前は始まりに何も持っていなかった代わりに、この先何もかもを得る可能性がある。そういう事だ」

 言われて○○は己の掌を眺める。
 自分の身体に、そんな可能性が眠っているのだろうか。最初は何も持っていなかったから、 この先何もかもを手に入れられる。そんな話、理屈にもなっていない気がするが。

「迷い人が得られる力は二つに分けられる。己の出自、縁に纏わる力と、そうでない力。 お前は縁により得られる力を持たない代わりに、 あらゆる世界の持つ力を不自由なく再現させる余地を持つ。勿論、努力すればな」

 半信半疑の○○の様子に、鬼腕は大きく開いた口元を笑みに歪ませる。

「もっとも、その可能性はあくまで本の中でだけの話だ。自分としては、 本ではなくこの船尾の舞台で己と対等に渡り合える相手が欲しい所なのだが、 そう高望みは出来まいよ」

「…………」

 うん?と○○は首を捻る。
 彼の言葉から、鬼腕が何を嬉しがっているのかが何となく伝わってきたのだが、 それを理解したくない自分が居る事も自覚できた。
 つまり、何だ?この男は、本の中で自分と手合わせできる存在としてこちらを見ている?
 ○○が遠回しにその事を訊ねると、竜人はまさかと肩を竦める。

「今のお前が自分の相手をこなせるなど思わんよ。まだお前も迷い人になったばかりなのだろう? ならば自分が、お前を群書の世界で不自由なく生きていけるよう、 少しばかり鍛えてやろうかとな。こう見えても、原理述技式――武器や肉体を扱う技術に関しては、 それなりの数の世界を渡って力を研ぎ澄ませたつもりだ」

 男は一度鋭く拳を振って、そして懐から一冊の本を見せる。
 恐らくその本の中で、自分にあれこれと戦い方を教えてやると言いたいのだろう。
 有り難い話と取るべきなのか、後が怖い話と取るべきなのか。判断に苦しむところだった。
 鍛えてやるという言葉を口実に、あれこれとおかしな流れになりそうな予感もする。

「無論、お前の気が向けばの話だがな。だが、 武器を扱う基礎くらいは学んでおいても損は無いだろう入る群書によっては その辺りの事を細かく指導してくれるところもあるが、そんな親切な世界ばかりでもないしな」

 試しに軽くやってみるか?と懐の本を取り出そうとする鬼腕を、○○は慌てて止める。 乗り気な所を申し訳ないが、 今日は木霊という案内役が居るうちに箱舟の中を一通り歩いて廻る予定なのだと早口に説明する。

「ならば仕方ないか。では、空いた時間にでもまたここへ来るといい。自分の単書集、 “コロセウム”にてお相手しよう。……何なら本に入らずに軽くここでやり合ってみるか?」

 冗談の中にほんの僅かな本気を感じ取り、○○は慌てて首を横へ。
 あまり長居すると宜しくない展開になりそうだ。
 ○○は足元で自分達のやり取りを眺めていた木霊を拾い上げると、 別れの挨拶だけを残して逃げるようにその場を後にした。

***

 そそくさと中央島の城まで戻り、一息。
 さて、次は何処へ行こうか。

−End of Scene−

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