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貴族、あるいは詐欺師

【備考】
"地図から消えた村"終了後
リンコルン→ベルン公国へ

 フリッツを1セット食べ終えたハリエットは、服の裾で右手を払いながらそう言った。

「貴族ってのは変な奴が多いんだよ! 俺なんてまだ平均に近い方だ。 親戚の奴なんかはな――」

「じゃ、もみあげとかその辺は置いといて……右手、見せてみ」

 む、とマノットは一瞬ためらうような仕草を見せた。

「手相を見るとか言うなよ?」

 ややあって、マノットは言われた通りに右の掌を差し出して見せる。
 ハリエットは差し出された手を座ったままでまじまじと観察すると、 上目遣いにマノットを見てにやりと笑った。

「やっぱ貴族はウソでしょ? あの連中の手なんて皆細くてすべすべだもんね。 でも、あんたは違う。ちゃんと武器を使い慣れてる感じ。 腕前まではわかんないけどさ」

「――意外と鋭い面もあるじゃねーか」

 マノットは軽く笑った。

「けどなぁ、貴族が皆なよなよしてると思ったら大間違いだぞ。 確かに剣の一つも振れない連中が大半だが、中にはダンスだの音楽だのはウンザリだ、 って奴も結構いる。俺みたいに趣味で剣術をやる奴も少なくないんだぜ?」

「そこまで言うなら“貴族にして詐欺師”ってことにしといてあげるわよ。 ま、どーせ私は旅券なんか買わないけどね!」

「まーそう言うなよ。値段を聞いたら気が変わるかもしれんぞ?  良い買い物なのに勿体無いなぁ」

「他をあたってよ。ほら、そこの人とかさ」

 ハリエットがおもむろに〇〇を指差した。
 マノットは、おお、と声を上げ、 たった今気がついたと言わんばかりに〇〇に向き直って両手を広げる。

「いやー、あんた運が良いねぇ」

 何か、面倒な男を押し付けられたような気がする……。

***





「ひょっとして今の話聞いてたかい? 今この旅券がすげぇお買い得なんだよ」

 マノットは旅券を片手に〇〇に歩み寄り、馴れ馴れしい調子で話しかけてきた。
 が、男の事は一旦放置し、 まずは野良猫市場の店主から預かったものをハリエットに渡すことにする。

「ん? なんだお前ら知り合いか」

 〇〇は店主の話を交えつつ、預かっていた袋をハリエットに手渡した。

「……え? 情報料にお釣りとかあるの?」

 受け取った袋の口を広げながら、ハリエットが不思議そうに言う。
 いぶかしみながら彼女が袋から取り出したのは、 紐の付いた小さな黒い球体だった。

 木製と思しき球体には小さな三角の突起が二つあり、 表面にはかろうじて猫の顔だと判断できる単純な図案が 、極めて稚拙な技巧で描かれていた。
 二つの突起はどうやら耳を表しているようだ。

「……なにこれ。嫌がらせ?」

「格好良いペンダントだな。呪いのアイテムとかじゃないのか?  まあそんなことより俺の話を聞け」

 マノットは〇〇に向き直り、旅券を見せて白い歯をこぼした。

 不細工なペンダントが何なのかは良く判らないが、ともかく“お釣り” を渡すという任務は完了した。
 後は適当にこの男の話でも聞いてから退散するとしよう。

 〇〇が話を聞く態勢に入ったと見るや、 男は旅券を高々と掲げて続きを語りだした。

「さあ見ろ、俺が独自ルートから仕入れたこの旅券、 これさえあれば国境なんか通り放題の良品だ。 しかも黒旅券じゃないぜ、白旅券だ、すげーだろ?」
(白……?)

 マノットは嬉しそうにそう説明してくれたが、 〇〇には彼の言葉の意味が今ひとつ理解できない。
 そういえば野良猫市場の店主も黒だとか言っていたが…… 旅券に色の違いがあるんだろうか?

「その人多分、白とか黒とか知らないんじゃないかなー」

 首を傾げる〇〇を見て、ハリエットが言った。

「お、そうか。ま、簡単に言うと“黒旅券” ってのは既に誰かの名前が書いてある旅券。 死人とか他人とかになりすまして使うもんだ」

(なるほど……)

 要するに、“黒旅券”というのは盗品の類、と……。

「で、これが白旅券。無記名なのに何故か認定印が押された希少品で、 自分の名前を書いて使う」

 マノットが自分の商品を掲げて言った。
 つまり端的に言うと、“白旅券”は偽造品、と……そういうことか。

「どちらも一長一短と言われているが、 俺としては白の方が圧倒的におすすめだ。 まず使いやすいし、高級品なら安全性でも黒を上回る。それが――」

「すっごくお高いよぉ」

 ハリエットは茶々を入れつつも新しいフリッツを取り出し、 楽しげな様子で〇〇とマノットのやりとりを眺めている。

「いや、それが安い! 確かに、このクラスの品は通常数十万…… 今なら下手すると数百万に届くかも知れんな。それがなんと、 たったの5000zel! やべーな、この値段。旅券業界の価格破壊だぜ。 しかも更に!」

 マノットは懐からもう1枚別の旅券を取り出した。

「今なら、同じ旅券がもう1枚ついてくる」

 大真面目な顔で宣言したマノットの背後で、ハリエットが食べかけのフリッツを噴き出した。

「あんたさっき“最後の1枚”とか言ってたでしょ!  大体、旅券2枚とか要らないし!」

「そうか? しかしこのチャンスを逃す手は無いと思うぜ。 これ以上安いところはちょっと無い。さあ、遠慮せずに、 どーんと買って行け」

(うーむ……)

 5000zelと言えば少し迷う額だが、確かに、 野良猫市場で見た旅券とは比較にならないほどに安い。
 とはいえ、あれが普通の相場とも思えないし、 旅券の品質とやらも全く判断がつきかねる。
 これでは本当にお買い得なのかどうかも判るはずが無い。

 さて、この旅券――買うべきか、買わざるべきか?

─End of Scene─

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