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貴族、あるいは詐欺師

【備考】
"地図から消えた村"終了後
リンコルン→ベルン公国へ

 レンツール共和国とベルン公国の国境は、ロレーヌ川という一本の大きな川によって作られている。

 フレビス山脈から流れ出た川は切り立った谷を生み、 ハギスの生息する森を抜け、やがて広大なジェルメーヌ海へと注がれる。
 この川に架かる橋はただ一つ、両岸に国境検問所を持ったサンカントネールの石橋だけだった。

 ここテンボス南街道は、ゼネラルロッツとリンコルンを結ぶと共に、レンツール側からサンカントネールへと繋がる唯一の街道だ。
 日中の街道には川からの心地よい風が吹きつけ、路傍に点在する樹木は高い陽射しを受けて濃い影を草地に落としている。
 適度な涼しさの中をのんびりと歩いていた〇〇は、やがてそうした木陰の中に2つの人影があることに気がついた。

     ***




「いやー、ねーちゃん運が良いなぁ」

 そう言って木の幹に片手をつき、座る少女を見下ろしているのは、 浅い紫色の衣装に身を包んだ見知らぬ男だった。
 その足元で柔らかな草地に腰を下ろし、両足を投げ出して座っているのは、 先日野良猫市場でも見かけた少女、ハリエットだ。
 彼女は男の方には目もくれず、右手だけガントレットを外してフリッツを食べている。

「すっげー耳寄りな話があるんだが、聞くだけ聞いてかないか?  マジでお買い得なんだけどなぁ……フリッツ食べるのに忙しいか?」

 男は軽い調子で話を続ける。あまりそういう風にも見えないが、商人なのだろうか。
 男の服は上下とも赤と紫を基調に金糸装飾が入れられており、 華美とも取れるが下品にも見える、 独特の趣を持っていた。
「うっさいなーもう。あっち行けって」

 ハリエットは短冊形に切られたポテトをつまみつつ、 空いた方の手で「しっしっ」というジェスチャーを返した。

「いやいや、俺は親切で言ってるんだぜ? さっきから見てたんだが、 お前さんあれじゃないか? ほら……旅券が無くて困ってる、とかさ」

「違うって。あんた一体なんなのよ」

「よくぞ聞いてくれた」
 男がきらりと白い歯を見せて笑った。

「俺はマノット。さすらいの旅券屋だ。たまにあるだろ?  こう……うっかり旅券を家に忘れたままで検問所まで来てしまうことが」

「無いって。……あーでも似たようなもんかな、今は」

「お、やっぱそうだろ? そんな時はこれだ!」

 言ってマノットは懐から一枚の板切れを取り出した。

「なんとこの旅券、無記名なのに何故かアーネム正教会認定の印が既に入っている。 上からささっと自分の名前を書いちまえば、 面倒な手続きはすっ飛ばして即座に旅券が出来上がるってわけだ。 近頃大人気のこの一品、おひとついかがかな?」

 はぁ、とハリエットはため息をついた。

「あんたねー、検問所の前で偽造旅券を売るとは、良い度胸してんじゃん」

「いやいや、これは特別なんだ。見てみろこれ、そこらの安物とはツヤが違うだろ?」

「や、ツヤとか要らないから」

「品質保証済みのこの一品、それがああ、なんてこった――もう最後の1枚だ。 まさに売り切れ寸前、このチャンスを逃す手は無いな」

「うさんくさ……。っていうか、実は超安物っていうオチでしょ。 いわゆる詐欺でしょ?」

 ハリエットはうんざりした様子で男をねめつける。

「詐欺じゃねーって! 見ろよこの俺の誠実そうな顔!」

 マノットは親指で自分の顔を示し、きりっと表情を引き締めて見せた。

「どうだ……これが人を騙す顔に見えるか? まぁ、 なんつーか……ちょっと俗世から浮いた感はあるかな。 自分で言うのもなんだが、抑えていても溢れ出る気品が隠し切れないっつー感じ?  何を隠そう、俺はベルンの貴族でね」

 貴族ねぇ、とハリエットはマノットをジト目で見つめた。

「念のために聞くけど、あんた野良猫市場で指輪買ったりしてないよね?」

「なんだそりゃ? 野良猫?」

 マノットは心底意味が判らない様子で聞き返す。
 だと思った、と、ハリエットは最初から期待していなかったという顔をする。

「人探しか?」

「まあね。でもあんたは絶対違うや。貴族っていうより、 詐欺師の顔だもんね。なんかこう絶妙な下品さが、凄く嘘っぽいし。 もみあげとか超濃いし」

「なっ……お、お前!」

 マノットは傍目にも明らかに傷ついた様子で、声を上げた。

「俺の美しいもみあげを馬鹿にする気か!」

「そもそもさ、どこの貴族がたった一人で、しかも野外で旅券を売り捌いてんのよ。 おかしいでしょ、普通に考えて」



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