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奇妙な積荷

【備考】
旅券を買う選択


     ***

「ちょっと何あれ! どういうこと!」

 ハリエットは憮然とした様子で声を上げた。
 検問所の様子を遠巻きに見ていた彼女だが、 例の馬車の荷物検査が一瞬で終わったことが不服らしい。

「言ったろ。これだから変なもの積んでてもわかりゃしねーって」

 マノットの言うとおり、先の検査はちらりと幌の中を覗いただけの、 形式ですらない挨拶のようなものだった。
 建物の中に入った白髪の男性はまだ戻らないが、 この調子だとすぐにでも通過は決まるだろう。

「差別じゃん! フツーの旅人には手荷物までちまちま広げさせてたくせに!」

「なにしろ貴族だからな。よほど不審な点が無ければ素通りみたいなもんだ」

 ハリエットは頬を膨らませたが、ややあって「そっか」と手を打った。

「つまり、不審なことがあれば良いってことだよね!」

 ハリエットはその場で自分の荷袋の中を探ると、 茶褐色をした筒状の物体を取り出してにやりと笑った。
 その表面にはドクロのマークが描かれている。

「うおっ。おい、まさかそれ爆弾じゃ……」

「大丈夫大丈夫」

 ハリエットは筒を片手に弄びながら、検問所の外に停められている馬車に狙いをつける。

「せーのっ」

 掛け声と共に、ハリエットが筒を投げた。
 筒は綺麗な放物線を描いて宙を飛び、ちょうど馬車の幌の上に落ちた。
 次の瞬間、検問所の前に大きな炸裂音が轟いた。

     ***

 馬が大きくいななき、御者が慌ててそれを制する。

「どう、どう!」

 騒ぎを聞きつけた兵士が中から数人駆けつけ、 にわかに検問所の前が険しい雰囲気に包まれた。
 兵士達は盛んに何かを言い合っていたが、ここからでは内容までは判らない。
 ややあって、白髪の男性も真っ青な顔で飛び出して来た。

「びっくりした? 爆弾なんて投げるわけないでしょ。音だけ音だけ」

 木陰から検問所の様子を窺いながら、ハリエットは悪戯っぽく笑った。

「おっそろしいことするな。国境でいざこざを起こすのは俺のいない時にしてくれよ」

「さて、これで積荷を調べて何か出てくれば大成功!」

「ひどい話だ。お、調べそうだぞ」

 白髪の男と兵士は何事か揉めていたようだが、ついには男が折れたらしい。
 数人の兵士が馬車の後ろに回り、積荷を検め始めた。

「わっくわっく」

 ハリエットは目を輝かせて木陰に屈み込み、その様子を見つめていた。
 マノットはやれやれと呆れ顔で言ってから、思い出したように続ける。

「そういや、さっき言ってた“死の臭い”って何なんだ?」

「知らない。……お?」

 馬車を取り囲む人の群れが、ざわりと揺れた。

「……何だ?」

 マノットが眉根を寄せる。
 どうも兵士達の様子がおかしい。だが、 ここからでは少し遠すぎて何があったのか良く判らない。
 もう少し近付いてみるか――そう思った時だった。

 悲鳴が上がった。
 陶器の割れる音がして、後ろについていた兵士の一人が尻餅をつく。
 馬車から飛び出した緑色の物体がその上に覆いかぶさると、次の瞬間、 血飛沫が上がるのが遠目にも判った。

「え? え?」

 ハリエットが目を丸くした。
 馬車から出てきた緑色の物体が生物なのだと、一瞬遅れて彼女は理解する。

 それは、奇妙としか言いようのない姿の生物だった。
 頭部はトカゲや竜のそれに似ているが、眼は無く、全体的な姿形は蜘蛛に近い。 卵のような丸い胴体から生えた脚は、奇怪なことに九本。
 これが自然の創り出した姿であるとしたら、 果たして如何なる環境の下で生まれ育ったものなのか――。

 ワンプか――とマノットが小さく呟いた。

「わんぷ?」

 ハリエットは聞いたこともない、という顔でその名を繰り返す。

「見ての通りの醜悪な化け物だ。こういうのを買い漁る連中まで居るから、 貴族は困る」

 マノットは馬車の方を見て、やや嫌悪感を露わにした様子で目を細める。

 ワンプと呼ばれた生物が大きく跳躍し、遠巻きにした別の兵士に飛び掛かった。
 兵士達はどよめきながら槍を振りかざし、 御者は情けない悲鳴を上げて馬車の上からまろび出る。

「これって……やばいんじゃない?」

 兵士達は応戦していたが、〇〇の見たところ、確かに彼らの分が悪そうに思えた。
 ワンプは体液を流してはいるものの、その動きには最初から全く陰りが見られない。
 あるいは、そもそも傷ついた個体を運んでいたのかも知れない。

「ほっとけ。彼らの仕事の内だ」

「でも」

 ハリエットは唇を噛んだ。

「……あれが暴れだしたのは私のせいだしさ、多分」

 ハリエットは決まり悪そうに言って、検問所に向かって駆け出した。

「ま、好きにすれば良いさ」

 言ってからマノットは首だけで振り返り、今度は〇〇に問う。

「……で、あんたはどうする?」

(考えるまでもない)

 答える代わりに、〇〇はワンプと呼ばれた生物を目指して一直線に走り出していた。

「みんな元気だな」

 走り行くハリエットと〇〇の後姿を見つめながら、マノットは苦笑する。

「……まぁ、俺には関係ないか」

 そう言った彼の眼差しは、どういうわけか少し哀しそうでもあった。

     ***

奇妙な積荷が現れた!




─See you Next phase─



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