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帰還、合間の空白[1] |
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「なんというか、大変だったみたいですね」 白と緑の城の中。“ジルガ・ジルガ”での出来事を一通り話を終えた〇〇に、隣を歩くツヴァイが苦笑しつつ感想を述べる。 ──あの後。 無事箱舟へと帰還した〇〇は、栞が収集蓄積した群書世界についての情報抽出や、記名時の障害が〇〇の存在概念に悪影響を及ぼしていないかを検査する為、割り当てられた城の居室でそのまま一泊。 今は一夜明けた後、報告と栞を返却に来たというツヴァイと連れ立って、城のエントランス目指して歩いている最中だ。途中、記名から帰還までの話を一から聞きたいとツヴァイに乞われ、移動時間を利用して簡単に説明をしたのだが。 「聖堂に、赤い海、ですか……」 ツヴァイは顎に細い指を添えて、常の笑顔を翳《かげ》らせる。 そういえば、栞の化身であるサニファもその二つについての記憶が全く無いと言っていた。ツヴァイは昨日、栞から情報抽出し解析をすると言っていたが、その結果も同様だったのだろうか。 〇〇の問いに、黒ドレスの娘は表情そのままこくりと頷いた。 「〇〇さんの栞を回収した後、一晩かけて洗い出しましたが、貴方が見たという血塗れの聖堂と、そして赤い海についての情報は得られませんでした」 となると、やはり夢だったのだろうか。〇〇としてはどうにも腑に落ちない。かりこりと頬を掻く。 ──最初の映像はともかく、朱の海については確かに記憶に残っているのだが。 一応、もう一度そう主張してみる〇〇。だが、 「問題は夢かどうかではなくてですね」 隣を歩くツヴァイは左右に首を振り、そして驚きの情報を付け足した。 「例え夢だとしても、サニファならその夢さえもある程度認識出来る筈なのですよね、本当は」 「…………」 夢まで把握できるのか、あの竜の着ぐるみ。プライバシーも何もあったものではない。 〇〇はツヴァイから視線を外し、げんなりと天井を仰いだ。 そんな〇〇の態度にツヴァイは喉を鳴らすようにして笑う。 「あの子は栞の化身ですから。そして記名中の栞とは、貴方という存在全てです。だから、貴方の思考、貴方の記憶、貴方の感情。あの子はそれらを全て知っている──いえ、少しニュアンスが違いますね。栞の中に〇〇さんに関わる情報が残っている、といった方が近いでしょうか」 ツヴァイはそう言い替えるが、今ひとつ発言が理解できない。もう少し判りやすい説明を、 と〇〇は真正面からお願いする。 普段なら、〇〇がそんな態度を取れば軽く茶化しの一つも入れてくるところだが、今日はツヴァイも真剣なのか。言葉を探すように僅かな逡巡を経た後。 「大雑把に説明してしまいますと、サニファと〇〇さんは別個の人格を持っていますが、サニファが意識的に〇〇さんに纏わる情報を探ろうとすれば、ある程度最近の事なら幾らでも掘り起こせる、といった感じですね。ちなみに逆は無理です」 ぞっとしない上に、不公平極まりない話だった。 *** そうこうしている間に廊下は終端。最下のエントランスへと続く螺旋階段に辿り着く。 萎えた気分が歩く速度に影響したのか、廊下では横を歩いていた筈のツヴァイの姿は、気づくと既に数段先だ。降りる速度を上げてツヴァイの隣に並ぶ。と、〇〇が傍に来るのを待っていたかのように、長髪が揺れて彼女の顔がこちらへ向いた。 「それで、先ほどの話を踏まえて──サニファは貴方の見た光景を未知のものと認識し、更に私が栞を調べてもそれらしい情報は見つけられませんでした。これはつまり、〇〇さんが見たという光景が」 ──夢ですらない、と? 〇〇が彼女の台詞を奪うように問うと、ツヴァイは視線を階段の先へと戻して頷く。 「若しくはサニファが解釈したように、記名処理時に生じた過負荷により栞の機能が停止して、その間に見た光景だったという線もありますが。ただ、正直申ししますとこの線は薄いでしょうね」 何故。 反射的な疑問の声に、ツヴァイはむっと少し眉を寄せて〇〇を見て「ですから」と前置き、 「記名している間の“挿入栞”とは、文字通り貴方という存在を群書世界上で形作る要となるものです。この時の貴方と栞は、ほぼ同存在であると考えてください。だから、例えそれが夢であろうと無かろうと、栞が認識出来ていないものは貴方も認識出来ていない状態でなければおかしい」 過負荷によって栞が機能を停止しているというなら、〇〇という存在も同様に停止している状態になっていなければならない。こういう理屈か。 ──でも、ならば今自分が記憶しているこの光景に、一体どういう説明をつけるつもりなのか。 |
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