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奇縁、鋼の遭遇VI[正ルート2]





「〇〇様ー、大丈夫ッスか?」

 肩上にひっついて翼をぱたぱた動かしながら、サニファが〇〇の顔を覗き込んでくる。
 対し、どうだろう、と曖昧に答える。まだ頭がくらくらと揺れていた。

「しっかし、滅茶苦茶な動きだったッスねー。多分サニファ達がいるこの空間はある程度術式で保護されてるんでしょうけど、それでも結構がくがく揺れる程っていうか。このデカさであの速度を維持しながらあんな動きとか、アクロバティックにも限度があると思うんスけど」

 サニファの感想に心底同意しながら、〇〇は床から漸く腰を剥がす。

(それにしても)

 立ち上がり、軽く一息ついてからふと思う。

 ──結局、戦闘はどうなったのだろうか?

「え?」

 と、サニファに尋ねたつもり声が、クロエの耳に入ったらしい。
 彼女が目を瞬かせてこちらを一瞬見る。

「いや、わたし勝ったですよ? 完全勝利です完全勝利。〇〇さん、見てたでしょ?」

「…………」

 恐らく見ていたのだろうが、そうとはさっぱり認識できていなかった。最後の大回転の時に、 こちらの戯馬から伸びた青色の光と相手の戯馬の上面らしき部分が見えた気がするが、 あれがそうだったのか。
 サニファはその辺り判っているのだろうか。思い、肩の上の着ぐるみに視線を送ると、

「えーと、確かメインラムでしたっけ? それをこう、この乗り物を横向きにしてから、更に縦に一回転させて叩き潰す感じで、ずばーんと。回転中、地面向いてる時に槍が土を溶かすみたいに抉るところが結構面白かったッスね。あと──」

 横向きにしてから縦に一回転、という表現がまず判らないのだが、もう詳しく聞く気力も無い。〇〇は頭を振ってサニファの説明を遮った。
 と、

「〇〇」

 後部座席から男の声が掛かる。
 そちらへ〇〇が振り向くと、セサルは風防の向こうを流れていく林を指差す。

「そろそろ君の記憶に期待したい所なんだけど、この辺りの景色には見覚えはないか?」

 そう言えば、あれからかなりの距離を移動した筈だ。そろそろサニファの言う空白エリアの外に出ていてもおかしくはない。
 〇〇が目だけで尋ねると、サニファは両目を閉じてむむむと唸り、

「んー。あ、もう出てるッスね。後、ここから林の外まではもう空白エリアは無いんで、最後まで案内できるッスよ。間に変な気配も無いッスし、取り敢えず──」

 問題はないらしい。〇〇はその事をセサルに伝え、肩の力を抜く。
 クロエ達が追いかけていたという存在は既に撃破し、道案内役もこの先の道に不安は無いという。

(──どうやら)

 山場は抜けた、と。
 そう考えても良いようだった。

 その後、サニファからの指示を元に走り続けて一時間。眼前に紫の色彩の切れ目が見え、そして次の瞬間、視界が大きく広がった。ようやく林を脱したのだ。



「ぃやったーっ!!」

「…………」

 歓声を上げるクロエと、深く椅子に背を預けて吐息をつくセサル。〇〇もあの不気味な気配と紫の色彩に覆われた林から無事脱出できた事に安堵し、青々とした空から降り注ぐ黄金の光に目を細めた。

     ***

 雑多な気配と喧騒に包まれた街の外れ。低く建てられた都市壁に所々存在する切れ目の手前で、戯馬は動きを止めていた。
 とんとんと装甲を踏んだ後、〇〇は身軽に戯馬から飛び降りる。そして背後の鋼の物体を改めて見上げると、その上部からは金髪の少女が上半身を覗かせていた。

「ホントは色々お礼とかしたいんだけど、まだ“選抜戦”中だからのんびりとか全然してられなくて……ごめんなさい」

 などと謝ってくるクロエに、〇〇はいやいやと首を振る。林を出てから、こうして街まで送ってくれただけでも十分だ。
 もし最初に彼らと出会った時、戯馬に乗せてもらえなかったなら。ここまで辿り着くのに一体どれ程の時間が掛かっていた事か。考えたくもない。
 取り敢えず、何やらレースのようなものに参加中である彼らにこれ以上無駄な時間を割かせるのは宜しくない。もう自分の事はいいから、早く出発すべきだと促すと、クロエはうんと頷いて、

「それじゃ、わたし達もう行くね。ホントにありがむぎゅ」

 と、戯馬の中に戻ろうとしていたクロエの後ろから、半ば彼女を押し潰すようにして黒の人影がひょいと身を出す。

「だから狭いからっ! つぶ、つぶれ──!」

「〇〇」

 セサルはばたばた暴れるクロエを無視して、懐から何やら板のようなもの一つ取り出すと、ひょいと〇〇に投げて寄越した。

「これを今回の礼としてほしい。助かった」

 飛んでくるそれを、〇〇は慌てて受け止める。

「……?」

 しげしげとその物体を眺めるが、用途はさっぱり判らない。







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