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奇縁、鋼の遭遇II[4]


「んー……〇〇様、ちょっと進行方向がズレて来てるッス。そっちいくと谷なんで、も少し左へって言って欲しいッス」

 両目をつぶり、〇〇の肩に座り込んでいるサニファが、そんな事を耳元でぼそぼそと呟く。
 〇〇は頷いて、すぐ傍──前後に長い型の椅子に跨るクロエにその事を伝えるが、

「え、何っ!? 聞こえない!」

 視線は正面、外が見える巨大硝子を睨みながら、逆側の床から伸びたレバーを掴んでがんがんがんと霞む様な速度で動かしていたクロエは、〇〇の方を一瞥すらせずに、己の体重を前にかけて、握っていた横棒をぐっと傾ける。その仕草に合わせて〇〇達が乗る機体──戯馬、というらしい──も傾き、うねる様に捻れた大樹の脇をすり抜けていく。
 ほ、と少女の肩から力が抜ける。その瞬間を狙ったかのように、

「クロエ、次の樹を抜けたら左方向へ回り込むように意識。右に行くと谷らしい。こちらでもそれらしい要素を何とか確認した。そちらの画面に地形図を送る」

「ん。──って、この地図狭いんだけど」

「我慢してくれ、空中線が無いんじゃそれ以上範囲を伸ばしようが無い。これでも無理してる方なんだ。あと、〇〇。操縦中のクロエに話を聞かせるにはタイミングがいるから、情報は僕の方に回してくれていい。……ああでも、そろそろだったか?」

 後部座席、硝子板の隙間から覗き込むようにこちらを見たセサルに、〇〇は短く頷く。
 先程からサニファの助言を伝えて戯馬の進行を補助していた〇〇であったが、 ここから暫くは不可能になる。サニファがツヴァイから受け取った地形情報とやらの欠損部、 空白エリアに入るからだ。この事は出発前にサニファから聞き、自分の名前等と共に事前にセサルに伝えてはいた。
 もっともそれは「こちらの記憶が曖昧な場所がある」という風な表現であったが。

「判った。クロエ、30秒まで現行速度維持、そこから速度を三割まで落として」

「よ、っと、──で、三割? って、そりゃわたしは楽だけど、そんなに落として大丈夫なの?」

「向こうだって、この辺りの“禁領”の詳細な地図なんて無い筈だ。それに、〇〇のお陰で、最初に想定していたルートよりかなり短縮できてる。猶予はあるよ。この先で僕らが道を外れない限りは」

「……判った」

 セサルの言う“向こう”とは、彼らが追っているらしい者達の事だ。その辺りの簡単な事情も、出発時に合わせて聞いていた。
 もっとも、彼らが説明してくれた話には、〇〇が聞いた事も無い用語が多分に混じっており、完全に理解する事は出来なかったが、しかしある程度の流れは理解できた。
 単純に言えば、彼らは今自分達が乗っている巨大な機械、“戯馬”を用いた競争の真っ最中なのだという。
 その先頭を走っていた機体が安全な正規ルートを外れてこの地域へと入り込んだ為、二番手についていたクロエ達も後を追って林に入り、そして〇〇と遭遇した。
 最初にクロエが戯馬から顔を出した時、妙に慌てて急ぎ立ち去ろうとしていたのはこれが理由であったらしい。

「〇〇様、空白エリアに入ったッス。ここからは、完全にこの二人に任せるしかないッスよ」

 と、物思いに耽っていた〇〇の耳をサニファの声が打ち、意識を今に引き戻す。
 〇〇は無言で頷いて前を見る。流れる風景は、ゆっくりとその速度を落としつつあった。

     ***

 速度を落とした状態のまま、クロエとセサルは互いに意見を交わしつつ、森の中を進む。〇〇は無駄に口を挟む事無く、彼らに完全に任せる形で、只の置物となることに努めた。サニファの助言が無い以上、下手な口出しは状況を悪化させるかもしれないからだ。

 ──しかし。

「クロエ、速度このまま14秒先で一旦停めて」

「え、止まるの? ……取り敢えず、了解」

 指示通りの秒数前進した後、戯馬が停止する。
 この辺りの木々は今までと比べて濃い目で、進行路はかなり制限されていた。クロエは風防越しに周囲を見回し、そして手元の硝子板に描かれた地形図を改めて見て、ぽつりと一言。

「四辻、か。それでセサル、ここからどうするの?」

 クロエは後ろを振り返って尋ね、その仕草に釣られて〇〇も後部座席に座るセサルの方を見る。

「…………」

 セサルは三面の硝子板の間で暫く視線を巡らせてから、はぁ、と溜息をついて顔を上げ、こちらを──クロエではなく、〇〇の方を見た。

「〇〇、済まないが、ここからどう進むか、君が決めてくれないだろうか」

 突然の提案に目を瞬かせる〇〇に、セサルは眼鏡の位置を軽く直しつつ、視線を風防の先へと向けながら更に言葉を続ける。

「見ての通り、ここから三つの道を選ぶ事が出来る訳なんだけど……今のこの機体の感知系じゃ、どの道の先も殆ど見えなくてね。だから、藁にも縋りたい。この辺りの記憶は殆ど無いという事だったけど、どうだろう。少しは何か、思い出すことは無いだろうか?」

 思い出すも何も、そもそもサニファの受け売りなのだが、そう素直に答える訳にもいかない。
 〇〇が視線だけでサニファに問うと、竜の着ぐるみは難しい表情で唸り声を上げ、

「ん、んー……判んないッスよぅ。一応、自分が持ってる感覚範囲の内だと、どの道通ってもこれといって問題ないとは思うッスけど、それも大した距離じゃないんで、正直役には立たないかと……」

 サニファの答えに、〇〇は深く溜息。
 それを己の言葉に対するものと取ったのか、セサルは声から力を抜いて更に言葉を続ける。

「〇〇、何でも良い。君の勘でもね。僕の勘で決めても良かったんだけど、どうにもこういう時、僕が選ぶと良いことがなくてね。クロエはクロエで、普段は運が良いくせに、ここぞという所でトチる類だし」

「ちょっと、セサルっ!」

 抗議の声を上げるクロエだが、黒髪黒衣の青年は全くの無視。

「というわけで、君に頼む。結果まずい事になったとしても……まぁ、残念に思うことはあっても、君を責めはしないから、安心していい」

 残念に思われるのもそれはそれで嫌だが、しかし自分が指示しないといけない流れにはなってしまったのは確かなようだ。

 先程の話にあるように、選べる道は三つ。
 内心の迷いを表すように視線を彷徨わせた〇〇は、目の前にあった方位針付きの時刻機──針の方は何故かぐるぐると回り続けていて役に立たない──を見ながら、思いついた方向を口にする。

─See you Next phase─

<行動選択>
まだ決めていない
風まかせ
1時の方向
3時の方向
12時の方向





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