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奇縁、鋼の遭遇II[3]


「良いから! 取り敢えず乗っけてもらえればサニファ達の勝ちッス! ほら、〇〇様、早く答えて!」

 急かすサニファの声に押されて、〇〇は見下ろす青年に向かってこくこくと頷いてみせた。
 対し、彼はきゃんきゃんと騒がしいサニファの方へは一瞥もくれず、〇〇から視線を外さぬまま話を続ける。

「なら、済まないが君に僕らの道案内を頼めないだろうか? さっきのアクシデントで、こいつの──」

 ぽんぽん、と鋼の巨体を叩いた。

「元々異常が出ていた外部感知系統が更にやられてしまってね。方位針まで狂い出した」

「え、嘘っ!?」

 青年の発言にもっとも驚いたのは、彼の下で暴れ疲れてへばっていた少女だ。
 がばっと顔を上げた彼女に、青年は軽く肩を竦めてみせる。

「本当。骨格とかの歪みは無かったけど、専用結晶の印に傷が二つ程入って長距離探査用の空中線機構が飛んだ。幾ら僕でも、戯馬《キャバリーホース》を部品無しで直すのは無理だ」

「……うへぇ」

 その返答に、少女はまた力を失ってべったりと突っ伏す。

「方位針無しな上に極短期地形図しか構築できないんじゃ、この森からの脱出も怪しい 。だから僕らには道案内が必要なんだよ。この地点にまで分け入っている探求者なら、確実性は無くともある程度は信頼できるし──少なくともここで無駄に口論するよりは良いだろ」

「で、でも、何処に乗せるのよ。これ、あなたも知ってると思うけど、普通の複座式より狭いよ?」

「操主席ならタンデムできるだろう。クロエ、後ろに乗せてあげたら?」

「ちょ、本気っ!? 素人後ろに乗せて舵切るとか無理無理っ!!」

「となると、少し狭いけれども横に乗ってもらうしかないか。座席は無いけど、搭乗領域は三法則制御入ってるから、少々揺れるくらいなら大丈夫な筈だ」

「……ん、なら、まぁ、いいかな」

 渋々と矛を収める少女を見届けて、青年は小さく息をついた後、改めて〇〇の方を見る。

「という訳だが、どうだろう。一応僕らも急いでいる身でね、出来れば直ぐに出発したいんだが」

 何やら揉めていたようだが、取り敢えず乗せてもらえるのならば否という理由は無い。〇〇は頷きで返して、鋼の巨体の傍へと駆け寄った。

「クロエ、もう戻って再起動始めて。全域試験は終わってる。問題点は主情報盤に表示させてある」

「え、う、うん──」

 まだ戸惑いを残したまま、クロエと呼ばれた少女が引っ込み、続いて青年の姿が奥へと消える。扉は開いたままだ。あそこから中に入れという事だろう。位置はそれなりに高所。〇〇はよじ登るのに何処の部分を足場とするか思案しつつ、同時に別の事も考える。

 ──サニファに乗せられて頷いてはみたが、本当に大丈夫なのだろうか。

 どうもあの青年──確か、少女からはセサルと呼ばれていたか──は、自分の道案内をかなり当てにしているような口ぶりだったが、実際のところ、自分はここが一体何処なのかすら把握していない迷子同然の状態なのだ。

「安心するッスよ、〇〇様」

 そんな〇〇の不安を察したのか。〇〇の視界に、ひょいとサニファが身を乗り出してくる。

「さっきも言ったッスけど、サニファ、姫姉様から地形情報を貰ってるんで、まぁ、土地鑑がある人程度の指示なら出せるッスから。判るところはテキトーに指示するんで、〇〇様はそれをそのままあの人達に伝えてもらえれば大丈夫ッスよ!」

 というサニファの物言いに、〇〇は僅かばかり首を傾げる。
 それは、わざわざ自分が間に入る必要があるのだろうか。 サニファとあの男が話をすれば解決するような気がするが。
 思った疑問をそのまま口にすると、サニファは目を数度瞬かせ、

「ああ、サニファは“挿入栞”を持ってる人にしか見えないし、声も聞こえないんスよ。あくまで挿入栞の化身なんで。本の世界の人には認識できないッス」

 成程。道理であれだけサニファが騒いでいるのに、あの二人が全くこの着ぐるみに注意を向けない訳だ。

「ちょっとーっ、乗るなら早く来てくださーいっ! わたし達、急いでるんでーっ!」

 と、開けっ放しの扉の奥から、焦れた少女の声が届く。
 あまり待たせる訳にも行かない。〇〇は慌てて巨大な鋼の塊に手を掛け、よじ登り始めた。

     ***

 速度は駈足の馬と同程度、といった所だろうか。
 この森の中、この図体である事を差し引くと、かなりのものである。 どうやらこの地域の樹木は太い代わりに生える間隔が広いようで、 だからこそ平の家屋程度の大きさはある、この巨大な物体が走り抜ける事が出来ている。
 だが、それでも幅はギリギリで、当然場所によっては到底通り抜けが不可能な地帯もある。それらを器用に避けながら、この速度を維持して走行を続けられるのは驚きだった。




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