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奇縁、鋼の遭遇I[続き]


 まず、一つ。
 どうしてサニファがここに居るのか。

「う? 前に言った通り、サニファはいつも〇〇様と一緒にいるんスけど…… そういう意味じゃないッスよね」

 言い直す。
 何故今、明確な意思と形を持って自分の前に姿を現しているのか。
 てっきり、その姿は“竜の迷宮”攻略の為だけにツヴァイが限定的に施した術の結果であり、 あの件が終わればもうサニファが現れる事は無いと思っていたのだが。

「なんか、そう言われると出てきちゃダメだったみたいに聞こえて正直ヘコむんスけど……」

 思わぬタイミングで勝手にひょこひょこ出てこられるのははっきり言って邪魔だな、 と微かに思ってはいたが、流石に口には出さず、〇〇は理屈の説明を促す。

「ええと──今回は初回記名で、それも“ジルガ・ジルガ”に対するものって事で、 記名時に何らかの不具合が生じて、その上“箱舟” との繋がりが上手く保てなかった場合には自分が顕現するよう、 姫姉様が栞の方に付加式を追記してたんッス」

 ……つまり、今サニファがこうして現れているのは、 “何らかの不具合”と“箱舟との繋がりが上手く保てなかった” という二つの条件を満たした結果、という事だろうか。

「せーかいッス」

 〇〇の冷や汗混じりの問いに、サニファは満面の笑みで頷いた。
 事前のツヴァイの説明から、どうせ一筋縄ではいかないだろうとは思っていたが、 悪い予想というのは当たっても全く嬉しくない。〇〇は深々と溜息をついてから 、サニファに話の続きを促す。 まず不具合について。次に、箱舟との繋がり云々について。 どちらも予想は出来なくもないが、サニファがこうして姿を現しているなら、 この着ぐるみに直接聞いた方が早い。

「えっと、まぁ、二つの条件はどっちも原因は一緒みたいなモノなんッスけど。 まず不具合については……“円環の広間”で姫姉様も言ってたッスけど、 やっぱり記名座標が派手にズレちゃって」

 本来は街の外れに出る筈が、ズレにズレた結果が今居る森の中、という事らしい。

「で、“楔”を打ってある地点から大きく離れちゃったせいで、箱舟の姫姉様と繋ぐ “道”を維持するのが難しくなったんで条件成立。代わりのサポート役ってことでサニファが。 〇〇様、群書世界に顕現してからも寝っぱなしで、眼を覚ます気配がないから心配だったんスけど、 大丈夫そうで良かったッス」

「……?」

 サニファの話に、〇〇は首を傾げる。
 大雑把な認識ではあるが、サニファは〇〇が持っている“挿入栞”が姿と意思を持ち、 顕現したものだ。常に〇〇と共にあり、本の世界で活動するための手助けをしてくれている存在。 つまり〇〇が群書世界で見て聞いた事は、この着ぐるみも知っている筈。
 なのにサニファは、〇〇が記名した後、ずっとこの森で気を失っていたような事を言う。
 あの硝子雪舞う聖堂も。
 朱の中にあった海辺も。
 まるで一切無かったかのように。

「う、ううーん? 聖堂に、赤い海──ッスか? それ、夢とかじゃなくて?」

 〇〇がその事を素直に話すと、サニファは両眉を反らせて不思議そうな顔。

「サニファの方にはそんな記憶は残ってないッスけど……。あ、でも」

 ぽん、と丸々とした手を打つサニファ。

「〇〇様が“ジルガ・ジルガ”に記名してからサニファが顕現出来るようになるまでに、 原因不明の空白みたいなものがあったのは確かッス。サニファはてっきり、記名処理── 〇〇様の存在概念の展開や、初記名時特有の群書への存在浸透に時間が掛かって、 その影響で生まれたラグのせいだと思ってたんッスけど……海ッスか?」

 海だった。
 赤い赤い、水平の際に太陽が浮かぶ朱色の海辺だ。
 そう補足するが、サニファの表情は冴えない。 サニファは己の記憶を漁るように頭を左右にふらふらさせていたが、 暫くすると諦めたように首を横に振った。

「うーん……申し訳ないッスけど、やっぱり判んないッス。記名の時には栞は過負荷状態ッスから、その間に〇〇様が認識したものはサニファの──挿入栞の記憶から抜け落ちてる可能性はあるッス。けれど、〇〇様はホントにそれを夢じゃないって思ってるんスか?」

「…………」

 そう言われると弱い。
 海での記憶には、夢とは思えぬリアリティがあったのは確かだ。だが、 そこから森に居る今の自分に繋げようとすると、途端に無理が出てくる。
 夢ではないかと言われても、全く反論が出来ない。いや、 普通ならば夢と断じてしまって良いような内容だ。 何故自分が固執しているのかもはっきりと判らなかった。

「まぁ、その、取り敢えずその件は脇に置いといて、今はまず箱舟に戻る事を考えないと……」

 それもそうだ。夢の検証などいつでも出来る。先に身の安全を確保しなければ。






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