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奇縁、鋼の遭遇I[続き]


 クロエは言い返すのを諦めて戯馬の操縦に集中しようとするが、後ろからの声は止まる様子が無い。

「ただ、もう少し時間を置いてからにすべきだった。陰性因子の影響が強くて、 こいつの感知系がロクに働かない。これじゃいつ迷ってもおかしく──ん、クロエ」

「何よ、今忙しい、んだけどっ」

 進行方向に見えた微かな凹凸を回避するべく、二番の両レバーを軽くタッチして後方左足の荷重を操作し、その反動だけで凹凸の隙間を抜ける。
 自身の技量ならばそう難しい事ではないが、しかし他の事に意識を割きながらとなると流石に厳しい。自然、クロエはあしらうような素っ気の無い言葉を返しかけて、

「三本先、あの大岩と樹が重なってるところを左左右で抜けて、その先の林を正面から突っ切れ。密集してるけど細木しかない──纏めて切り払え。メインラムチャージ開始」

「ぶえっ!?」

 変な声が出た。

「主動力40%分をバイパスするからラグに注意して。ブレード形成の出力制御は僕がやる。 タイミング合わせ、12秒から、11、10」

「はぁっ!?」

 経験による身体の反応だけで操縦を続けながら、今の話がどういうことかを考える。
 クロエの感覚では、速度維持を意識しつつ安全なルートで障害物を回避していった場合、 セサルが指定した地点への到達に掛かる時間は凡そ20秒。
 だというのに、彼のカウント開始はそれよりも八秒早い。
 それはつまり、

「……こっから更にスピード上げろっての、この馬鹿っ」

 戯馬に取り付けられた主武装であるメインラム。これを切り払い──ブレード形状で運用する場合、展開継続時間は40%なら三、四秒といったところだ。出力調整次第で時間はもう少し延びるが、その制御自体もセサルが行うのでは、甘い読みはできない。
 となれば、相棒が言うタイミングに合わせるしかない。抗議の声を上げながらも、クロエは彼の要求に応えるべく両のスロットルを開き、足板の操作も法則制御から下部推力機構に対するものへと切り替える。
 速度を稼ぐなら、メインラムに出力を取られて鈍くなった三法則制御機構より、独自の内燃機関を具えた推力機構を使う方が上なのだ。
 過ぎる風景が更に加速し、主操舵柄が重みを増す。
 だが、これだけでは足りない。
 そもそも距離が大して無いのだ。速度を上げてもこれで精々一、二秒。
 ここから更に、左左右と──。

「っ、く」

 馬鹿、ともう一度叫びそうになる。
 操舵柄の中央に取り付けられた硝子板。そこに映し出された地形図と指示経路に眼を剥く。
 ここを左、左、右だって? 先刻のようなアクロバットじみた軌道を、最低でも二度こなさなければすり抜ける事など不可能だ。
 無理だ無理、無理無理無理!

「セサル、無」

「──退くなっ、行け!!」

「ひゃ!? って、あ」

 後方からの怒鳴りに一瞬身体が固まり、迂回する最後の機会を逸した。
 こうなっては、セサルが示したルートを辿る以外ない。一瞬、硝子板に視線を走らせる。残りは五秒。指示通りにすり抜ければ、確かに間に合う。

「もー、くっそーっ!!」

 少女は半分涙目になりながら、両足板の操作対象を推力機構から三法則制御機構へと再度変更。

 ──今度の演目は、機体を斜めに泳がせてからの前方二回宙返りだ。

     ***

 一瞬の空白の後。何故か、〇〇は森の中に居た。
 今度は一体どうなったのかと、まだはっきりしない頭を抱えて戦々恐々しつつ辺りを見回すと、

「あ、〇〇様起きたッスか!? 良かったッスー」

 すぐ傍で甲高い声。

(画像)

 見れば、小さな竜の着ぐるみが安堵の溜息をついていた。

「それで、身体とか、気の方に問題無いッスかね? 自分の事、判ります?」

 掌程の大きさのその物体が、短い手で己を指差してそう尋ねてくる。
 姿と口調には覚えがあった。ついこの間、“竜の迷宮”と呼ばれる単書に挿入した際に馴染みとなった存在。
 名前は確か──サニファ。リンドヴルム・サニファだったか。
 〇〇の答えに、小さな着ぐるみは嬉しそうに首の部分を上下にぶんぶん振ってみせる。

「そッスそッス。何なら、リンドちゃんって呼んでくれても構わないッスよー?」

 お断りします。
 一言で斬って捨ててから、〇〇はゆっくりと腰を上げ、身を起こす。どうやら、地面に倒れていたらしい。

(……ええと)

 結局、自分はどうなっていたのだろうか。
 確か最初は奇妙な聖堂のような場所に出て、 しかし状況を把握する間も無く、今度は赤く赤く染まった海の縁に。
 混乱の中、そこに居た誰かの指示に従って海を歩いていった結果、 身体が突然海中に沈み込んで気を失い、そして今の状況だ。
 もう何が何だかさっぱり判らないが、取り敢えず埋められる疑問点を優先して埋めていく事にしよう。






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