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深奥にて



 ――こっちだ。

 先をゆくリュウシンが手で合図し、3人が小走りでつづいた。
“コギト”の指導者としてシエロ襲撃計画を暖めていた彼は、 聖公庁内部の様子に精通していた。

「子連れで実行するハメになるとは思わなかったけどな」

 そのことを打ち明けたとき、彼はそう言って苦笑した。

「ともあれ元凶は“真紅の魔女”こと、薬師カルミネラだ。あの女が錬金魔術を応用した秘薬をもちいて聖公シエロをあやつっているにちがいない」
 モルトたちは事前の情報からそう結論し、カルミネラの研究室がある棟への進入を決めたのだった。

「――!」
 先頭を進んでいたリュウシンの足が止まった。 後続のセルリアも足を止めて、呆然と立ちつくした。

 研究棟の最奥。
 暗紅色に彩られた金属製の扉の前に立つのは、 緑の法衣を着けた半透明の人影だった。

 リュウシンがつぶやいた。

「女の、亡霊……?」

 モルトは、ゆっくりと前に進みでた。 蒼白たる美貌に、彼はみおぼえがあった。

「……レナータ」

「――!?」
「エルニノの、お母さま……?」

 リュウシンがふりむき、セルリアもモルトの顔をみた。
 エルニノは畏れることもなく、母の亡霊と対峙していた。

レナータ

 レナータ――聖公の妹にして、“救世主” エルニノの産みの母たる亡き女性の霊は、 10年前と寸分たがわず痩せおとろえ……だが気高く、 そして美しかった。

「エルニノ――」

 レナータはエルニノの首にきらめく聖印の首飾りをみて、 モルトに穏やかな微笑をむけた。

「ありがとう。あなたが、エルニノに伝えてくれたのですね――“ 哀しみ”の心を。これで、 この世に思いのこすことはありません」

 そう語りかける口調は、とてもやさしかった。 彼女はモルトの瞳をじっとみつめ、目を細めた。

「……そうですか。あなたは戦う決意をなさったのですね。 では、礼拝堂へむかいなさい。この扉の先では、 人を喰らう獣が眠りをむさぼっています。悪夢と苦痛にみちた、 忌まわしき眠りを――」

 モルトのそばで、リュウシンが怖気に肩をブルッと震わせた。
 レナータは最後にセルリアに顔をむけ、 いつくしむような表情で手を広げた。

「あなたになら、安心して委ねることができそうです。 エルニノを、よろしくお願いいたします……」

 そしてレナータの亡霊は、背景に溶けこむように消失した。
 リュウシンがあわてて前に踏みだしかけたが、 亡霊の警告を思いだしたかのように足を止めた。

「母さま――ありがとう」
 エルニノがぽつりとつぶやいた。
 少年の頬には、ひとすじの涙が流れていた。

─End of Scene─








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