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カリオテ漂泊 |
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カリオテ。
ルクレチア共和国の南端に位置するいにしえよりの交易都市である。 芽吹いた若葉が成長し、陽射しが一段と強さを増すこの時期。 そのカリオテに、フードを目深にかぶった、4人の巡礼者が足を踏みいれた―― *** 「……ずいぶん騒がしいわね」 「夏至祭だよ。この地方の古い伝承で、“この世”と“あの世”とが、いちばん近づく日とされているんだ!」 セルリアの問いに、6歳で神学院を修了した神童、エルニノが快活にこたえる。 ファミリオの惨劇から6日。 共和国軍の追手から奇跡的に脱出をはたした4人は、巡礼者に身をやつし、 このカリオテの地に逃げのびていた。 「エルニノが祭りの出店をみたいって言うんだけど。どうしよう?」 突然、セルリアが言った。 エルニノは彼女の袖口をしっかりつかんでいる。 モルトは、リュウシンに視線を送った。 「ま、大丈夫だろ」 リュウシンが肩をすくめた。 「わぁ、大きなザクロ! ひとつ買っていい!?」 「ねえモルト。エルニノって、意外と食いしんぼだよね……」 はしゃいで先をゆくエルニノを、セルリアが追う。 「武器をくれ」 リュウシンにしか聞こえない声音でモルトがひっそりと言った。 「なぜだ?」 「ふたりを守りたい。できれば使いたくないが―― 今後も楯だけで戦えるかどうか、わからない」 マントの下で武器を受けつつ、彼は声をひそめた。 リュウシンは、考えぶかげな表情のまま青空をみつめていた。 モルトの視線に気づいて、低く言う。 「これからどうするか、悩んでいたのさ。 “コギト”はオレひとりになっちまった――ひとりじゃ解散もできねえ」 リュウシンはくちびるをゆがめた。胸を刺すような笑顔だった。 「オレはイオの――子どもたちの未来のために戦っていた。だけど未来が、 消えてしまった」 雑踏のなか、彼はモルトにむきなおった。 「あんたはふたたび、武器をとった。なんのためだ。正義か? 復讐か? それとも反抗か?」 モルトは一瞬の間ののち、雑貨の出店をのぞきこむエルニノに目をやった。 「エルニノに、涙の意味をおしえてやりたいんだ」 エルニノがその視線に気づき、遠くから手をふった。 「早く、はやく!」 *** 「エルニノ!」 モルトは祭の雑踏をかきわけて進み、エルニノを呼びとめた。 セルリアとエルニノが同時にふりむく。 「なあに?」 仔猫のようにまんまるい瞳でみあげるエルニノに、 彼は銀製のペンダントをさしだした。 “大戦”中の10年前。エルニノの母レナータから預かったものだ。 「エルニノ。これはな――」 その刹那、セルリアがひょこんと顔をだして、モルトの瞳をのぞきこんだ。 「――あれ? わたしにくれるんじゃないの?」 ─See you Next phase─ |
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