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カリオテ |
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セルリアのむかった方向に近づくにつれ、 雑踏のざわめきがしだいに大きくなった。 脳裡をかすめる不吉な想像を、モルトは押しのけて走った。 「セルリア――」 雑踏のむこうに、モルトはセルリアの姿をみとめた。 セルリアは石畳の上に、痛々しい姿で横たわっていた。 全身があざだらけで、脇腹から大量の血を流していた。 周囲をとりまく群衆に、リュウシンが怒号を発した。 「貴様らのしわざか!」 「オ、オレたち自警団は……人をかどわかす悪魔を――」 「悪魔は貴様らの方だろ!」 リュウシンのただならぬ気迫に、群衆は散り、 つづいて気味の悪い静寂が舞い降りた。 「セルリア!」 モルトが彼女を抱き起こす。 「セルリア、どうしてこんな――」 「えへへ、逃げようとしたんだけど――また、転んじゃった」 セルリアは笑おうとしたが、苦痛でくちびるがゆがんだ。 モルトはそのとき、はっと気づいた。 「セルリア、その足……」 「うん、うまく動かせないの。むかし、ちょっと――ケガしたの。 ただのドジな娘だと思ってた?」 セルリアが弱々しく微笑み、モルトは頭を鎚で殴られたような衝撃を受けた。 やっとふれあえたと思ったセルリアの心との距離は、 太陽と月ほどにも離れていた。 あんなにいっしょにいたのに、何ひとつ気づくことができなかった―― 前向きさに覆い隠された彼女の痛みにも、たすけて、という心の叫びにも。 「ねえ、聞いて……モルト。わたしひとつ……ウソをついた」 セルリアの呼吸が乱れた。 「傷にさわる、しゃべるな」 「いいの、もう助からないよ。だから最後に聞いて。 わたしに弟がいたって話、あれはウソ。“クオレ”っていうのはね、 生まれてくることができなかった――わたしの赤ちゃんの名前なの」 モルトはその言葉を、ただ呆然と聞いた。 「わたしがカメラマンになった理由、前向きでいたいと思う理由。 それはね。クオレに、“本当の世界”を見せてあげたかったからなんだ――」 そこまで一気にしゃべると、セルリアは激しく咳こんだ。 「ねえエルニノ!」 「なあに?」 彼女は、わが子をかき抱くようなしぐさをみせた。 「さよなら……」 セルリアはそう言うと、モルトの腕のなかでかくんと頭を垂れ――そして、 息絶えた。 母の胸で眠りにつく子どものような、安らかな表情で。 「セルリア――セルリア!」 どれくらいの時間、慟哭していただろう。 顔をあげたモルトは、たしかにみた―― エルニノの頬に光る、ひとすじの涙を。 ─See you Next phase─ |
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