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管理代行のお勉強


 エルアークの地上部に聳《そび》える巨城、“白と緑の城”
 その上層に位置する、単書を収めた書庫群“主の書室達”の更に上に、 一つの部屋がある。
“箱舟”の管理者──正確にはこの船と城を作り出した人物──が、 己の居室としたのがこの部屋で、今はその管理者代行として、 一人の少女がここで暮らしていた。

     ***

 主の書室達へと足を運ぶと、部屋中央に置かれた椅子に座り、 本に目を落としているツヴァイの姿があった。

「○○さんですか。済みませんけれど、 この本を読み終わるまで少し待っていてください。 時間はそれほど取らせませんので」

 書室に置かれていた単書の調整でもしているのだろうかと、 彼女の背後から本の中を覗き込むと、 ツヴァイは○○が見やすいようにわざわざ体を小さく横へとずらしてくれた。
 彼女の肩越しに見えた本の中身は、 殆ど言葉とは思えぬ紋様が複雑に書き込まれた単書とは違い、 一応文字であると認識できるモノがつらつらと書かれていた。
 ツヴァイ曰《いわ》く、この本には内に“世界”を構築する単書、群書ではない、 ごく普通の本というものもそれなりに収めているらしい。
 今ツヴァイが読んでいる物もその一つだとか。ちなみに、その中身はというと。

「これは、旧時代における記名技術についての文献ですね」

 旧時代というと、あれか。確か、 “大崩壊”とやらが起こる前にこの世界に存在していたという。
 以前彼女から聞いた説明をぼんやりと思い出しながら呟くと、 ツヴァイは○○を見上げて小さく頷く。

「そうです。この本は当時記名という技術を初めて考えた方が、 一般に向けて公開した理論と術式を、本としてまとめたものです」

 そういえば、“本の中に入る”という突拍子も無い手法は、 “箱舟”が出来る以前からこの世界に存在していた、という話だったか。

「ええ。まぁ、理論構築と実証はかなり後期──“大崩壊” が起こる数十年前辺りのようですけれどね。式の構成も本当に初歩の初歩で、 怪しいところも多くて、正直今この箱舟で使われているものと比べると、 雲泥と言っても良い差があるのですけれど」

 そうはいいつつも、ツヴァイはぺらぺらと頁を捲る手を止めない。
 そしてそのまま最後まで一気に読み通して、ぱたんと音を立てて本を閉じる。

「……やっぱり、ないか」

 ツヴァイはそう呟いて、細く溜息をついた。
 一体、何を探していたのだろう。○○が疑問をそのまま口にすれば、 ツヴァイはとんとんと指の腹で本の背を叩きながら、

「“落丁”の原因とか……色々、です。どうも最近、厄介な事が多くて──私も一応、 主から箱舟の管理代行を任されている身ですから、 せめて状況程度は把握しておきたいのですけれど、それも中々上手く行かなくて」

 それはまた大変だ、と○○が他人事のように言うと、 じっとりとした笑顔で睨まれた。

「○○さんも、その『厄介な事』の一つなんですけれど。 “縁の無い迷い人”も、理屈ではかなり有り得ない事なんですよ?」

 と言われても、好きでこうなった訳ではないのだが……。
 ここは謝るべきところなのか、と悩む○○の様子が面白かったのか、 ツヴァイは直ぐに目元を緩めて首を横に振った。

「御免なさい、八つ当たりみたいな話になってしまって。……それで、 ○○さんは今日はどういった御用件で?」

 今日は──。


ーEnd of Sceneー


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