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かけがえのないもの |
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雑踏のまんなかに立っていた。 ――モルト? ――ねえ、モルト? 遠くから声が反響する。 しだいに意識がはっきりしてくる。 「どうしたの? 急にぼうっとして」 セルリアが裾を引いた。 「――ここは?」 「カリオテだけど……? いったいどうしたの、なんか変だよ?」 セルリアがいぶかしげに彼をみあげた。 彼は吸いこまれるようにその瞳をみつめ…… モルトは我をとりもどした。 そう、ここはカリオテ。 3人は“コギト”の首領リュウシンとともに、 聖公庁の追手を逃れ、ここに逃げてきのだ。 時季は、夏至祭のさなか。 祭りはまさに佳境だった。 ――なぜか、初めてではないような気がするが…… 気のせいか。 モルトは頭をふった。 「戦車だよ」 セルリアの指さした方向から、黄金色に飾りたてた、 古代の戦車がやってきた。 人々が、わっと歓声をあげる。 古代の太陽神崇拝の名残といわれる、 夏至祭の最大のみせもの。 戦車を引くのは馬ではなく、 この地方ではめったにみかけない、 “ゾウ”という動物だった。 「わぁ、すごい……」 エルニノの両肩に手を置いて、声を失うセルリア。 モルトはその肩をそっと抱いた。 「すっかり家族じゃねえか」 リュウシンが茶化した。セルリアがうつむいて、顔を赤らめた。 「セルリア、カメラを貸しな。オレが撮ってやる」 黄金の戦車にみとれる人々のあいだで、 突然ざわめきが起きた。 ざわめきの中心は戦車のずっと後方、 すこし離れた場所だ。 何がおきているのか、長身のモルトにもよくみえなかった。 「なんだろう?」 エルニノが小首をかしげて駆けだそうとするのを、 セルリアが止めて言った。 「わたしがみてくるよ。もしはぐれたら、 西門で待ちあわせね」 セルリアはそう言って駆けだそうとする。モルトは―― ─See you Next phase─ |
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