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街道にて、再び

旧ルーメン方面へ を選択

 ベルン公国、ベルケンダール。豊かな水源と広大な平原に恵まれたこの町からは、交通の要となる街道が三方へと伸びている。
 ひとつはベルン北部ボーレンスへと続く黒犬街道、いまひとつは西部の港町ルイーズへと続く白羊街道。そして、最後のひとつがここ、 南東へと続く緑林街道である。
 だが現在、緑林街道だけは他と少し様子が違っていた。
 緑野を横切る街道の姿そのものには、さほど大きな違いはない。 しいて言うなら緑林街道の周辺はやや起伏に富んでおり、 またその名の通り林のすぐそばを抜けるような箇所が多かった。
 しかし、決定的な違いは別にある。ここでは行き交う者の姿が、 全くと言って良いほど無いのだ。
 真冬の街道でさえここまで無人化するものではない。 道自体は整備されているのだが、 利用者が居ないとはどういうことだろう。
 その理由は、町を発ってからほどなくして判明した。

     ***

「道に迷われましたか? こちらは現在、通行止めになっています」

 差し掛かった橋の手前には、金属鎧を着込んだ二人の番兵が立っていた。
 ご丁寧なことに、橋の入口は土嚢のバリケードによって塞がれている。

「ご存知かと思いますが、この先……つまり、 旧ルーメンは封鎖中でして、当分はお通しできない決まりになっています。ご理解とご協力をお願いいたします」

 男の物腰は柔らかい。だが、その口調にはどこか有無を言わせぬところがあった。
 もう一人の男がにやりと口元を緩める。

「ま、たまには物見目当ての奴が来てくれないと、 俺らが暇で仕方ないんだけどな」

 確かに、と男達は顔を見合わせて笑った。
 あまり神経質になっている感はないが、
当然ながら交渉の余地などはないだろう。  どうにかこの通行止めを迂回して、先に向かう道は無いものか……。

     ***

「ふっふっふ、迂回路をお探しかね?」

 そんなことを考えつつ街道を引き返していると、 町の方から見知った人影が近づいてきた。

「どうだ、私の鮮やかな尾行術」

 その少女――ハリエットは、得意満面の笑みを浮かべて言った。
 どうやら、町を出たあたりからついて来ていたらしい。
 見事な尾行……と言いたいところだが、よく考えるとこの街道は一本道だ。

 しかも殆ど気配を感じることもなかったから、よほど距離を置いていたのだろう。
 それはもう尾行ではなくて、単に同じ道を歩いていただけの人である。

「言葉もないようね! でもそんなことはどうでも良くて、 今日はこれを渡しに来たのよ」

 言って、ハリエットは懐から板切れを取り出した。先日、 ルブターの屋敷から拝借した無記名の旅券だ。
 ちゃんと覚えていてくれたとは、若干意外な気もする。

「随分長引いちゃったけど、これを渡して約束は完了……なんだけど」

 ハリエットは少し迷うそぶりを見せる。

「……やっぱ、ついでにもう1つだけ手伝ってもらっても良いかな?」

 珍しく遠慮がちにそう言った。
 なんだか次々に要求が増えてきているような気もするが……。

「気をつけろ。こういった“引き伸ばし”は典型的な詐欺の手口だ」

 背後でマノットの声がした。

     ***

「……なんで、あんたがここにいる?」

 ハリエットは怪訝そうに眉をひそめた。

「念のために言っておくが、俺は詐欺師ではない」

「そんなことは訊いてない」

 いつものパターンとは少し違い、ハリエットの瞳には警戒の色があった。
 マノットがお手上げのジェスチャーをする。

「ここにいるのは、まぁ偶然――」

「真面目に答えて」

 おどけた調子で答えるマノットの言葉を、ハリエットが遮った。

「サナトリウムの時はまだ良いよ、私が呼び出しを書いてたから。 でも、今回はおかしいでしょ?  私がマイケルを見つけたのは偶然だけど、 その上あんたまでこんな街道に乗り込んでくるなんて、 幾らなんでも怪しすぎる」

 ハリエットがマノットに詰め寄る。



「あんた、どうやって私達を見つけてるの? 目的は何?」

「尾行した……って言っても信じてくれそうにないな」

「あやしすぎて信じられない」

「おめーらだって偶然出くわしてるんだから、 俺も偶然で良くないか?」

「私は良いの。でもあんたは駄目」

「……参ったね」

 マノットは両手を挙げて降参のポーズを取り、苦笑いを浮かべる。

「正直に言うと、確かに今回はちょっと特殊な方法を使わせてもらった。元はと言えば、おめーが“どっかで会おう!”とか適当なことを抜かすからだ」

「具体的には?」

「……ある人の助力を仰いで、現在地を調べてもらった。 具体的な手段は、魔法――としか思えない。冗談じゃなくてマジでな」

「何それ?」

 ハリエットがひときわ訝《いぶか》しそうに目を細めた。

「ある人って、占い師とかそういう類?」

「うおっ」


 突然マノットが色めきたち、顔面蒼白になって辺りを見回した。

「先生を占い師よばわりするはやめろ! 極めて危険だ……!」

 マノットは真剣な表情で囁くように言った。

「命が幾つあっても足りんぞ……」


 はぁ、とハリエットが気の抜けた返事をする。
「んじゃ何なのよ。魔法使い? なんか、釈然としないなぁ」

「悪いが先生については余り多くを語れない。実際、 俺も良く知らんからな。とにかく、 べらぼうに偉大な大魔術師の御力添えにより、 お前らがここに向かっていることを察知したのだと理解してくれ」

 うーん、とハリエットが唸る。

「これって、新手の詐欺?」

「どこに詐欺の要素があるんだよ! 真面目な話だ。 なんなら今度先生に会わせてやっても良い。命の保証はできないが」

「大して会いたいとも思わないけど、 その先生のお名前ぐらいは教えてくれても良いんじゃない?」

「ああ……。リーシェ様、だ」

「リーシェさんね。……あれ?」

 ハリエットは口元に手をあて、記憶を探るような素振りを見せる。

「なんか、どっかで聞いたことあるような……」

「お前が言ってるのは多分、五大遺産の“リーシェのアトリエ” のことだろう」

「あ、それだ」

 ハリエットがぽんと手を叩いた。

「えっ? てことはその人って、五大遺産の主なの?」

「そんなばかな。五大遺産は一番新しいやつでも100年以上は昔のものだぞ。普通に考えて、持ち主が生きているはずがない」

「そっか」

「解ってもらえたかな」

「まだよ。結局、あんたの目的は何?」

 ああ、と今思い出したようにマノットは言った。

「そんなの決まってるだろ! 金だよ金!  ルーメンの生き残りなんて美味しすぎる!  情報でも関連物品でも絶対売れるぞ!」

 嬉しそうに宣言したマノットを前にして、 ハリエットは深いため息をついた。

     ***

「……解った。んじゃ、これ持って消えて」

「お、何だ?」

 彼女がマノットの前に突き出したのは、 紐の付いた小さな黒い球体だった。
(ん? あれは……)
 木製の球体に小さな三角形の耳。そして稚拙な猫の顔 ――それには見覚えがあった。
 いつぞや野良猫市場の店主が彼女に“お釣り” だと言って贈った珍妙なペンダントだ。

「それかよ! 検問所の時にお前がもらってた奴だろそりゃ」

「よく憶えてるなー、そんなこと。 まあこんなんでも売れば幾らかにはなるでしょ。はいどーぞ」

「要らねーって! 前にも言ったが、 どう見てもそれ呪いのアイテムだから捨てちまえよ」

「そうかなあ。結構可愛いような気がしてきてるんだけど」

「んじゃ自分で持っとけば良いだろ。 とにかく俺はそんな変な物では誤魔化されん。 必ずルーメンの情報を掴んでやるぞ!」

 あーあ、とハリエットは肩を落とした。

     ***

「なんかさー、期待させといて悪いけど、 生き残りっていう表現はちょっと違うんだよね……」

 ハリエットは先を歩きながらそう言った。
 彼女の提言によって一行は緑林街道を外れ、 近くの林を抜ける小道を進んでいた。
 どこへ向かっているのかは聞かされていない。
 道は荒れていたが幅自体は広く、獣道などではないことが判る。 どちらかというと、 人の手によって拓かれた道が再び草木に埋もれて消えつつある、 といった感じだ。

「お前自分で生き残りって言ってなかったか?」

「言ってない。あんたが勝手に言い出したんでしょうが。 よく思い出してみれ」

「そうだったかな。なんか慌ただしくなったから良く覚えてないな」

「私とピーテルはさ、あの日ボーレンスのサナトリウムに居たの。 ちょうど入院手続きをしたばかりだったから。 うちの親はその頃ずいぶんと忙しかったみたいで、 ピーテルをサナトリウムに送り届けた直後にルーメンに帰ったんだけどね。 ……結局、それっきり会ってない」

 言って視線を逸らすハリエットの表情は、一瞬、 泣きだしそうにも見えた。
 だが、もう一度こちらに向き直った時には既に、 いつもの調子を取り戻している。

「だから私達は生き残りといえば生き残りだけど、 事件を見たわけじゃなくて、単に村に居なかっただけなんだよね」

「ふーむ」

「3日ほどして、ルーメンの村は無くなった、村人は全員死んだ、 って連絡受けたよ。でもそんなので納得できる人間がこの世にいると思う? 私はなんとかしてルーメンの様子を確かめようとした。でも駄目だった。強行突破も試してみたけど、これは流石に失敗した」

「騎士団が封鎖してるとこを、お前が個人で突破するのはそりゃ無茶だろうな」

「……けど、私は抜け道を知ってる」

 ハリエットは歩きながら布袋を取り出した。
 中を見たわけではないが、おそらく、そこに入れられているのは例の指輪なのだろう。

「今なら通れる」

     ***

「着いたよ」

 やがて辿りついた場所は、森の中にありながら周囲を石壁で囲われた広場だった。
 草地の中央には太い十字架型の石が3つ並んで横たえてあり、どことなく不吉な感じを受ける。
 近づいてみると、石はちょうど大人が一人寝そべることができそうな大きさだった。
 苔むした壁の際には色とりどりの花が咲いており、どういうわけか、奥には地下へと降りる階段があった。

「おい……なんか、陰気な場所だな……ちょっと怖いぞ」

 マノットが嫌そうな顔で広場に足を踏み入れる。

「古い処刑場よ。絞首台とか斬首台とかあったみたい。 今は使われてないはずだけど」

「格段に怖さが増した……」

 マノットが顔をしかめた。
「そうだと思ってあえて黙ってたのに、あんたが訊くから悪いのよ」

「いや訊いてねーし……肝試しに来た訳じゃないだろうな」

「この際ここが何だったのかはどうでも良いの。今から、ルーメンの村に潜入するよ」

「何? ここからか?」

「そこの下に仕掛けがあって……」

 ハリエットが広場の奥にある階段を指差した。
 と、揺れる草花の中に、生白い人の姿が見え隠れしていることに気が付いた。

「……なんか、変なの咲いてるね」


     ***

処刑場に揺れる蕾(たぶん強そう)が現れた!
Lv24



─See you Next phase─






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