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歌舞伎町

 新宿を当てもなくさまよい続け、 何度目かの夜を迎える。
 僕たちは、ひときわ激しい襲撃を受けて、 見るも無残な瓦礫の丘にたどり着いていた。
 この世界でも、 かつては一番の歓楽街だったはずの場所。

 新宿の中心−−歌舞伎町。

 娯楽を打ち砕くことで、人間の生きる気力を奪い取ろうとしたのか、 敵国の脅威を見せつけたかったのか、 歌舞伎町に集まる軍人や要人を始末したかったのか。
 戦争に理由などないのかもしれないが、 思わず考え込んでしまう。

 今や歓楽街の面影など見る影もなく、 完膚なきまでに破壊された様子はまるで滅亡した世界のようだった。

 その時、顔に雨が降りかかる。 その雨粒は、なんだか灰の味がした。
 僕たちは、雨露をしのぐため、手近な瓦礫へ駆け込み、 ふたりして膝を抱えて、その場所に小さく座り込んだ。

 あたりには、誰もいない。
 静寂に包まれた歌舞伎町には、降りしきる雨の音だけが鳴り響く。

 疲れ果て、希望も失い、僕たちはずっと無言だった。
 それでも、となりにスズがいてくれるというだけで、僕は救われていた。
 ここまでやってこれたのも、横にスズがいてくれたからだ。

 こうして隣にスズがいてくれれば、元の世界に戻れずに、 この世界をさまよい続けることになっても、 その途中で力尽きてしまっても、 構わないとさえ思えた。

 突然、僕の左肩に柔らかい重みがのしかかってきて、 一瞬全身が硬直する。

歌舞伎町


 スズが僕にもたれかかってきたのだ。
 スズは、あまりの疲労から、眠ってしまっていた。

 無理もない。ここにくるまで、 軍の追跡に神経をとがらせながら、 何日も歩き続けてきたんだから。

 遠くでかすかに交替のサイレンが鳴り響いていた。

 僕は、先ほどとは別種の緊張を全身にはらませながら、 寝息を立てるスズを見つめた。
 スズが腰掛けている瓦礫の中には、 コマ劇場という看板が混じっていた。
 
 僕は目を閉じ、僕の世界のことを思い出す。

 この看板を、僕は毎日のように見ていたことがある。
 退屈な夜をごまかすために、この灯りの消えない街を徘徊 《はいかい》していたんだ。

 一夜限りの出会いを求めて・・・・・・。

 そんなもの、ありもしないって、 わかってたのに・・・・・・。

 東京の中心のこの街には、翼が折れた”天使“達が群がっていた。 ”天使“達は、誰かとつながることで、折れた翼の痛みをごまかそうとしていた。
 いつか永遠の絆に巡り合う奇跡が起きると信じて。

 地上に降りた天使達は、失った楽園の思い出を探していたんだ。

 僕にだって、思い出の絆がある。
 あれは、クリスマスを前にした寒い冬の夜だった。
 帰りたい場所がない僕と名前も知らない彼女。
 だけど、ふたりの楽園に、 奇跡が起きることはなかった。

 −−その子は僕の財布を奪って逃げたんだ。

 僕の意識は、いつのまにか、 僕の思い出の新宿をさまよっていた。
 現実なのか、夢なのかもわからないままに。

 どっちだ!?

 僕は全速力で走っていた。
 ネオンと騒音と欲望が凶暴に渦巻く歌舞伎町の雑踏を。

 ♪遠く離れていても、つながっているのかな?

 さっきから、 携帯のメール着信音がなっている。
 でも今はそれどころじゃない。

 毎日通って歩きなれた雑踏。
 駆け抜けるべきルートが白いラインとなって見える。
 僕は、ただそのラインにそって、全速力で進むだけ。

−End of Scene−



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