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不思議な案内役

「そういえば○○さん、この城の外とか出てみました?」

 突然の質問に、○○はツヴァイに淹《い》れてもらった飲み物を口に含んだ状態で 目を白黒させた。
 そして考える。
 言われてみれば、“箱舟”に戻ってきた時はいつも“円環の広間” とこの“主の書室達”の一室を行き来するだけで、 この建物──確か“白と緑の城”だったか──から、一歩も外に出た記憶が無い。

「じゃないかな、と思ってたんです。確か私、 貴方に箱舟の成り立ちについては御話ししましたけど、 ここが具体的にどういう構造になっていて、何処に何があるのか、 誰が居るのか。そんな御話を全くしてなかったなって思い出して」

 そういえば、この城以外の場所がどうなっているのか全く聞いた覚えが無い。 確か、ここがエルアークという名の船である、という事程度は把握しているが、 それ以上となるとさっぱりだった。

「丁度良いですから、今回はその辺りについて御話ししておきましょうか」

「…………」

 また話が長くなりそうな予感に、思わず渋面になる○○であったが、

「○○さん。今、『うわ、またどんだけダラダラ喋る気だよこのガラクタめ』 とか考えませんでした?」

 満面笑顔でそんな事を言う可憐な少女に、○○は滅相もありませんと首を振る。

「……まぁ、今回は本当に簡単に説明しますので安心して聞いてくださいな」

 どうにも信用し難いが、これ以上彼女を突っつくのも拙い。 ○○は小さな溜息を押し隠して、話を聞く態勢に入った。

     ***

 ツヴァイが言うには、驚いた事にこの船は、海ではなく空に浮かんでいるらしい。
 今自分達がいる“エルアークという名の船”を基盤とした中央島と、 そこから繋がる八つの小島で形成された浮遊群島。それが“箱舟”なのだと。
 ○○がはじめてここで目を覚ました時、ツヴァイに追われ辿り着いた崖は、 つまりその島の端の光景であったようだ。  しかし、何故島をわざわざ浮かすなんて真似を。

「主によると、“大崩壊”時に発生が予想されていた超大規模津波に対応するため、 島を丸ごと浮かべてみた、という事らしいですね」

 ○○に呆れの混じった感想に、まるで島を空へと飛ばすくらい何でもない事の様に、 彼女は平然と返してきた。
 実際、本の中とやらに入り込む等という無茶な仕組みを造り上げるくらいだ。 島を浮かべる程度造作も無い事なのだろう。もう呆れを通り越して、 ただ苦笑するしかなかった。
 中央島と小島は、空中水路と呼ばれる島内で水を循環させるための大橋 によって結ばれており、その欄干部を伝っていけば徒歩による移動も可能だという。 地表部を丸々埋め尽くす程の大規模な建造物がある島もあれば、 ただ何も無い所もあって様々なようなのだが、

「小島部分は言ってみれば殆どおまけのようなもので、 中央大島、正確にはエルアークと呼ばれる船の部分が、 箱舟の大半の機能を司る構造になっていますね」

 特に、箱舟という施設が持つ最も重要な部分──内に世界を保有する書物達を 取り扱うのは、中央島の上部に建つ白と緑の城と、 地下となる円環の広間の二箇所のみ。
 白と緑の城は、言わばエルアークの艦橋として存在する建物なのだが、 元々はこの箱舟を造り上げた者が“大崩壊”以前に己の居城として使っていたものを、 エルアーク建造の際に丸ごと移植したらしい。
 そして城の外には“木霊の庭園”と呼ばれる、 ○○がツヴァイと巨人に追われて逃げ回っていた場所が広がっている。 その時の事を思い出すに、あれはどう見ても庭ではなくただの森だったような気がする。 が、ツヴァイが言うには、庭を住処にしている存在が手を加えた結果、 ああなっているとか。
 木霊の庭園には、 箱舟の中では数少ない食料となる果物が実っているらしいのだが、

「大抵の“迷い人”の方々は、二度と口にしたくないと仰いますね」

 と、至極楽しそうにツヴァイは笑った。その口ぶりからすると、 どうも味に問題があるらしい。

「それで、ええと……実はこの箱舟には私と“准将”以外にも住人がいまして。 ついでなので、その人達についても説明しておきますね」

 彼女はうんうんと頷いて、この箱舟にはどんな人物がどの辺りにいるのか。 それを簡単に教えてくれた、のだが。

「…………」

 正直、一度にあれこれ説明されても覚えきれないというか、 実際そこまで辿り着ける自信が無いというか。
 ○○が素直にそう言うと、ツヴァイは笑顔のまま、 何だか凄い哀れみのこもった目を向けてきた。
 その視線に耐え切れず、思わず顔を逸らした○○だが、 ツヴァイはその○○の情けない姿を見て満足したのか、 直ぐに至極愉快そうな笑い声を上げる。

「く、ふふ──と、こほん。ええと、ですが、そうですね。 道案内役が居た方が良いのは確かでしょう。 私がご案内しても構わないのですけれど、折角ですから」

 そこで彼女は言葉を切ると、部屋の中に設けられた小さな階段から中二階部分へと 上がり、そして何かを抱えて戻ってくる。
 彼女の手の中にあったものは──大きさは大体握り拳位だろうか。 黒色の、柔らかな毛のようなもので覆われた、もこもことした球体。
 それはツヴァイの手から床の上に落下すると、ぴろん、ぽろんと、 常識的に考えて有り得ないとしか言いようの無い効果音を発しながら跳ねて、 そのままテーブルの上、○○の直ぐ傍へと着地する。
 驚きの表情でその物体を凝視する○○を、 ツヴァイは愉快そうな目で眺めながらこう告げた。


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