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不可侵協定

戦闘に勝利した。
 
「二人がかりなんて卑怯だァァァ――」
 
影は霧散し、跡形もなく消え去った。
同時に辺りを覆っていた鼠色の空気も 薄れていき、月が徐々に元の明るさを取り戻す。
 
メリルを追う

   
「さすが、オレが見込んだだけのことはあるネ!」
 
ペーターが跳ねてきて所定の位置――頭の上だ――に乗る。
 
「どうだ、メリル。やっぱり手伝って貰った方がいいって」
 
「そんなことできるわけないだろ。 この前も言ったが、どう説明するつもりなんだ」
 
是非、説明していただきたい。
今の影がデモノイドなのだろうということは察しが つく。しかし、どうやって街の中へ侵入してきた のか。そして、何故メリルを狙ってきたのか。
 
「ソノトオリ。あれがデモノイド、その中でもグラトンと呼ばれる連中ダ」
 
そういえば、この前もグラトンがどうのと言っていたような。
 
「奴らは協定を無視して、街の中まで入り込んでき ては、人を襲っている」
 
協定?
 
「不可侵協定サ」
 
不可侵協定?
デモノイドとそんな協定を結んでいるなんて初耳である。
――いや、それはおかしい。アーレイベルグ正規軍 はデモノイドの領域へ攻勢をかけているではない か。一方的な不可侵協定などあるはずがない。
 
「チガウ、チガウ。デモノイドが自分達で決めた取 り決めダ。ここの人間はそんな協定があるこ となんて知らないサ」
 
ますます意味が分からない。
そんなことをして一体何の得があると言うのか。
 
「絶滅してもらっちゃ困るのサ」
 
「人類が絶滅する時、世界は闇に覆われる」

世界を闇で覆うのが彼らの最終目的ではないのか 。悪の親玉が好んで言いそうなことだが。
 
「人間は皆そう思ってるが、実際は違うんだナ。 奴らは光を喰って活動してるのサ。だから、奴ら の周りからは光が消え、闇ができるってワケ。奴 らにとっての空気みたいなもんダナ」
 
さっき見た弱々しい月の光。鼠色の空気。
 
「デ、光が全部なくなっちゃうと、生きてい けないワケ。そして、人間は光を作り出すのが上手なんだナ」
 
ペーターがその目をチカチカと明滅させる。
既に夜も更けてかなり経ち、建物から漏 れる光はかなり減ってきているとはい え、それでも、街のあちこちから光が漆 黒の夜空に向かって溢れていた。
家屋から漏れる蝋燭《ろうそく》の淡い光。
歓楽街がある方角の空を、夜明け前のように白 ませている街路に並ぶ照明の光。
街を囲む壁に等間隔で並んで周囲を照らして いる篝火《かがりび》の光。
確かに、燃料さえ無尽蔵にあれば、夜を昼 に変えることさえできるかもしれない。

「そんなわけで、これ以上減らさないよ うに皆で保護しまショ、って協定ができたんだナ」
 
「しかし、それを守らず、自分の腹を満たすこ とにしか興味がない連中がいる」
 
「それが、グラトンってわけダ。あいつらに とっては空気より三度の飯の方が大事なんだナ、ケケケ」
 
「そして、グラトンを狩るのが私の仕事だ」
 
グラトンにとってメリル達は邪魔者ということか 。それで排除しようとしたと。
 
「グラトンは基本的にならず者で、協 調性なんて持ち合わせてない。だか ら、単独行動する奴が多い。その分 、自らの特殊能力を他の奴に知られ てないから、危険な奴も多い」
 
「だから、オレサマのような知的な 参謀がいないと、脳筋メリルだけじ ゃ心配で心配で――」
 
メリルに手甲の甲の部分で殴られ転がっていくペーター。
 
「さて……分かっているとは思うが。今聞い たことは全て口外するな」
 
今までの話からすると……その内容が人 類の知るところとなっても、特段問題は ないように思えるのだが……
 
「絶対に口外するな。もし、私の仕事 の邪魔をするつもりなら、まずお前から……狩る」
 
メリルがその氷の瞳で〇〇を睨む。
メリルの属している組織の存在が公になっては困 るということなのか。デモノイドの内情にもや けに詳しい。その組織はデモノイドと通じているのか?
ならば、あまり公にはしたくないのも頷ける。
〇〇はメリルの仕事について尋ねてみた。
しかし、メリルはただ一言だけ。
 
「……詮索もするな」
 
そういうと一人でその場から去っていってしまった。

「マ、大概メリル一人で大丈夫だと思うが、今日み たいにヤバイ時には手を貸してくれヨ。そん時には オレの仲間を呼びに行かせるから」
 
その組織には他にはどれぐらい仲間がいるのだろうか。
 
「ンー、難しい質問ダナ。メリルには仲間はいない」
 
まさか、メリル一人でグラトン全部を相手にして いるというのか。確かに見かけによらず並 外れた身体能力のようではあるが……
 
「イヤ、おそらく羊飼いは他にもいる。だが 、お互いの存在は知らないだろう。マ、正 規軍もお飾りじゃないからな。特殊な能力 を持ったグラトンじゃないと、街の中まで単身 乗り込んでくることはそうそうできんよ」
 
確かに、あの巨大な壁を越えて見張りに見 つからずに街中まで侵入することは容易ではないだろう。
 
「その代わりってわけでもないが、オレの個 人的な仲間はどっさりいるから安心シロ。― ―オマエ、学園のウサギ小屋見に行ったことあ るか? 結構大きくて快適なんダゼ」
 
そういえば見たことがない。
ウサギ小屋というからにはウサギが住んで いるんだろうが、まさか……
 
「マ、そういうことだから、これから もメリルと仲良くしてやってくれ」
 
まだもやもやしている部分があったが 、整理しなければならない情報も多く 、とりあえず今は考えるのをやめた。
再び頭の上に乗ったペーターと共に、〇〇 は学園への帰路に就くことにした。

「ふーん、他にもいたんだ」
 
建物の影から〇〇達の様子を伺っていたその 人影は、そうつぶやくと闇の中へと消えていった。
 
─End of Scene─
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