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狭間、朱の海辺にて


 無音の叫びが聖堂を貫いて、その余韻が消え去ると同時。
 硝子粉の中、宙から少女を見下ろしていた筈の〇〇は、何故か海面に叩き落されていた。

「──ぶ、っ」

 〇〇は口に入った海水を吐き出しながら、慌てて身を起こす。
 深さは無く、膝丈程度だ。聖堂で浮かんでいた時の高さから落ちたとすると、 この水深では地面に叩きつけられている筈だが、そこまでの感覚は無い。精々、 人の背丈程度の高さから落下した程度の衝撃。何故。いや、 そもそも屋内から突然海に落下するのがまずおかしい。理屈に合わない。流れが見えない。 状況が繋がらない。
 〇〇は混乱した頭を振りつつ、状況を把握するため辺りを見回す。

 そこは巨大な聖堂などではなく、赤色の海に囲まれた小さな浅瀬だった。
 沈みかけた太陽が齎《もたら》す紅色に染まった空は広く、八方は水平線が覆っている。
 そんな全てが朱の色に包まれた世界の中で、酷く場違いな物体があった。
 木製の四脚机と、椅子だ。
 古びた椅子には、暗色の長衣のようなものを身体に巻きつけた、 男とも女とも付かない奇妙な人物が静かに腰掛けていた。
 その人物は手にしていた小さな冊子を閉じると、面を僅かに上げて〇〇を見る。




「驚いた。ここに、お前のような奴が来るとはな」

 年齢や性別を読み取らせない、不思議な声音。
 顔はこちらに向けられている筈なのに、フードの奥は不自然な影を造って、 何故か見通す事が出来ない。

「丁度仕切り直す最中で、誘導しきれなかったか? 少なくとも、 ここを目当てに来た訳ではなさそうだが……いや、あの子がお前を選んだのか?」

 一体何者だ、こいつは。
 ぶつぶつと意味の判らぬ言葉を呟く影に〇〇が誰何の声を上げると、

「私か? 私はそうだな……まぁ、名乗る程の者でもないな。お前も私に名乗る必要は無い。 どうせ、意味など無いしな」

 長衣の影は、気楽な調子でこう返した。

「…………」

 はぐらかすような答えに、〇〇は表情を険しくする。
 先程からの雪崩のような状況の急変に心が追いつかず、普段よりも沸点が下がっている。
 そう自覚は出来たが、しかし容易く収められるものでもない。〇〇は苛立ちのまま言葉を発しようとして、

「お前、“上”から来たんだろ。この本の──“群書”の世界目指して」
 留めるように放たれた人影からの指摘に、小さく息を飲む。

 ──知っているのか、群書の事を。

 しかし長衣の影は驚く〇〇など全く気にせず、

「なら、来る所が違う。ここは終わった連中が来る場所だ。 お前が目指してる場所は……そうだな。大体、あの辺りから行けるだろ」

 と、影は直ぐ傍、海の一角を無造作に指し示してみせた。
 何も無いではないか、と〇〇は反射的に文句を言うが、 しかし人影は面倒そうに衣に包まれた手を揺らすだけ。

「いいから行け行け。行けば判る」

 とけんもほろろに返されて、〇〇は暫し迷った後、 仕方なくそちらへと足を向ける。混乱しているというのもあるが、 影の声には抗いがたい何かがあった。
 そして、ざぶり、ざぶりと赤色の海を割り、影が指し示していた位置に〇〇が辿り着いた瞬間。

「────」

 息を呑む。
 突然、身体がすとんと海の中へと吸い込まれたのだ。
 底が浅い所から深い所に踏み込んだ、というより、突然底が抜けたかのような感触があった。
 〇〇は慌てて水を掻き、海面へ上がろうとして、しかし。
 くらり、と全てが眩んだ。
 何故と思う間も無く。
 視界が青く、いや赤く、黒く閉じて、そして四肢の感覚が失せ、意識が瞬く間に遠退いていく。

 ──それは、箱舟から本の世界へと記名する際に得る感触に、とても良く似ていた。

─See you Next phase─





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