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H-7山岳地帯

 湿原を南へ抜けると山岳地帯へと至る。現在は休眠状態にある火山が連なり、幾つもの谷や尾根を形成している。
 山脈の中央に位置する火山の河口部はカルデラ湖となっており、そこにはデモノイドの駐屯基地がある。
 そこがH-7山岳地帯と呼ばれる一帯であり、アーレイベルグ正規軍の重要な攻略目標の一つになっている。
 そこに配備されている超大型デモノイドが発射する火山弾は、大湿原及びハルフォン川流域周辺を砲撃可能で、ここを攻略しない限り、アーレイベルグ軍の南方への遠征はままならないのである。

 しかし、今はその山頂上空に不快な紫色の雲が渦巻いている。デモノイドが纏《まと》う闇の気配とは別の、全く異質な風が山脈から吹き降りてきていた。
 〇〇が意を決して歩を進めようとすると、そこにあの女デモノイドが現れた。

「ハーイ、ここから先は通行止めでーす」

 〇〇は即座に武器を構え戦闘に備える。

「おっと、貴方とやりあっても勝てそうにないから、まともにやりあおうなんて思ってないわよ?」

 女デモノイドは〇〇から距離をとる。しかし、空中から火球を放ち、〇〇を威嚇する。
 簡単には通らせてもらえないようだ。
 その時。

「お前の相手は私がする!」

 背後の茂みから飛び出した人影が女デモノイドを襲う。
 突然のことにバランスを崩し、その人影と共にデモノイドは墜落した。しかし、すぐさま襲撃者を跳ね飛ばして距離をとる。
 襲撃者はメリルだった。

「こいつの相手は私がする。お前は山頂へ行け!」

 メリルはこちらを振り向きもせずに叫んだ。
 メリルには聞きたいこと、聞かなければならないことがある。何故今まで――

「……私はあの街を守りたい。街を、街の人々を、学園の生徒を。あの街での生活を壊されたくなかった」

 メリルは振り向かずに続ける。

「初めのうちは任務の妨げにならないように目立つ行動は避けていた。でも、この前のことで気づいた。今の生活が壊れてしまうのを恐れて、正体を隠していたのだと」

「フーン、あたしは退屈で仕方なかったけどね」

 デモノイドが茶々を入れる。

「お前には仲間はいたのか?」

「仲間? 他の羊飼いの事かい? さあねえ、別にいなくても仕事に支障はないしね」

「違う。共に生活する仲間だ。私はそれを見つけた。デモノイドの街では皆まわりのことなど考えずに、自分の為にだけ生きていた。何か面白いことが起きないかと他人を影から観察していた。だが、あの学園では違った。一緒に生活する仲間がいるから、自分が何かする度に、誰かが何かする度に、互いに干渉し、影響しあい、面白いことも、面倒なことも起こる。だから、退屈することなどない」

「随分と感化されちゃってるねえ。あたしはね、あたしの自由にやりたいのさ。だから、誰にもあたしの自由を阻害して欲しくないのね。他人に意見されたり、引っ張られたりってのはまっぴら御免だね!」

「それでいい。それがデモノイドだ。そして、私もデモノイドだ。だから……私がアーレイベルグで暮らす自由を奪うものは、全力で排除する!!」

 メリルがデモノイドに勢いよく飛び掛る。デモノイドもそれをかわし反撃に出る。二人の戦いが始まった。
 どうやら、答えは出たようだ。
 あと、自分がなすべきことをするだけだ。

「サテ、心の準備はできたのカイ?」

 いつの間に現れたのか、ペーターがすぐ横にいた。

「この先にいる奴はこの世界の理から外れた存在ダ。このままここに存在し続ければ、世界の均衡が崩れてしまう。そして、奴に対抗できるのはオマエサンだけだ。サア! 狩りの時間ダ!」

 そうと決まれば、ここはメリルに任せ、先を急がねばなるまい。
 〇〇は山頂への道を急ぐ。

 道は途中で二手に分かれていた。
 尾根伝いに進む道と、谷間を進む道だ。
 尾根を進む道は狭く道の両側は足場が悪いので、巨大な敵に遭遇することはないだろう。しかし、空からは丸見えとなる。
 谷間を進む道は広くしっかりしているので、敵も防衛線を張りやすいだろう。しかし、空からの攻撃にはさらされずに済むだろう。
 さて、どちらを進むか。

‐See you Next phase‐


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