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歌子のオルゴール

剛力の捩子所持
 ○○は箱舟右前翼となる小島へとやってきた。
 この島の上部殆どを埋めているのは、“硝子天蓋” と呼ばれる大型の建物である。
 まるで角のように伸びた尖塔群の中心に、 美しい色合いの硝子が填め込まれた丸屋根。 このドーム部分が硝子天蓋という名の由来だ。

 建物の規模の割には小さい、開けっ放しの正面入り口を潜り、 エントランスへと入る。
 硝子天蓋のエントランスは、外からの光を取り込まず、 内部に設けられた照明で灯りを確保する構造になっているのだが、 今は肝心の照明機能が死んでいる為、酷く暗い。これはエントランスに限らず、硝子天蓋内の大半の場所は同じような構造となっており、唯一の例外といえば。

「──ッ」

 唐突な眩しさに、○○は思わず右腕で眼を蔽った。
 硝子天蓋の中心。朽ちかけた長椅子が半円状に並ぶ大きなホールへと足を踏み入れた○○は、天井の硝子を通して届く光に、小さく声を漏らす。
 施設唯一の外光を取り入れたこのホールの詳しい由来は聞いていないが、確か硝子天蓋自体は、旧時代の大劇場をそのまま移植した建物だと言っていたか。
 並ぶ長椅子の奥には、部屋の規模と比べれば小さいながらも、立派な舞台──の跡のようなものが見える。
 しかしその舞台跡には何の興味も無い。○○は無言で視線を上へと向ける。
 壁近くから伸びた、硝子の丸屋根を支える何本かの大柱。その出っ張りの一つに、この硝子天蓋を塒《ねぐら》とする鳥姫の巣があるのだが──。

     ***

“硝子天蓋”の内部。歌子の住処へと訪れると、彼女は膝の上に何かを置いて、それを覗き込むように丸くなっていた。



「あ、○○」

 こちらに気づいて顔を上げる歌子。一体何をしているのかと彼女の手元を覗き込めば、そこにあったのは紫色のオルゴールだ。歌子の持つ『天上樹ホール』の中で見たあの巨大なオルゴール達も、この世界では手の中に収まる程度の大きさしかない。今彼女が持っているのも、恐らくあのオルゴールの中の一つだろう。
 ○○はそう結論付けかけて──しかし僅かに首を傾げる。
 歌子が手にしていたそれは、あの時のオルゴールとは少しばかり毛色が違っているようにみえた。

「これはね」

 たどたどしく語る歌子の説明を要約すると。
 このオルゴールは他のオルゴールと同様に書物の世界でのみ動く品物で、 使う捩子巻きの種類によって奏でる曲が変わる、とても特別なものらしい。だが、肝心の捩子巻きが今一つも手元に無く、動かせないのだという。何でも、このオルゴールに使う専用の捩子巻きは、一度使うと壊れてしまうのだとか。
 正直呆れた。効率が悪いどころの話ではない。もうちょっと頑丈に造れなかったのか。
 ○○が素直な感想を溢すと、歌子も頷きつつも困り顔。

「わたしもそう思うけど、でも捩子自体のがんじょうさはあんまりかんけいない。捩子の中に詰まってるちからみたいなのをオルゴールに注いで、それで動かすから。捩子の中に曲が入っていて、巻く時にそれをオルゴールが覚えて、再現するの」

 捩子巻きというより、一回切りの燃料みたいなものなのだろう。

(にしても……)

 その捩子巻きがここに無いのは判ったが、それは他の場所にあるのだろうか。それとも、もう何処にも捩子が無いという意味なのか。
 歌子はんー、と眉根を少し寄せた表情で○○を見上げて、

「……たぶん、“黒星”が持ってる。でも、無理」

 その答えに、○○は首を捻る。
 持ってるのに無理とはどういう意味だろう。譲ってくれないという事か。

「すこしちがう。わたしは捩子を“関連付け”してもらうだけの“干渉力”が無いから、いろいろ手順がひつようで……て、あ」

 そこで、歌子は目を二度ほど瞬かせて、ぴょんと勢い良く立ち上がった。

「○○なら大丈夫かも! ○○、“しへん”って拾ったこと、ある?」
 し、へん?

「しへん。紙片。存在の紙片。“迷い人”は、本のなかで生まれる存在のかけらを、形にして、手に入れられるの。それが紙片。○○、もし紙片がいっぱい集まったら、黒星のところ、行ってみて? ○○なら、紙片さえいっぱいあれば、直ぐに捩子巻きを関連付けてくれると思う。あれが干渉力の素だから」

 しかしそれ、こちらが得する事はあるのだろうか。
 歌子は天井を見上げて、ちょっと考える仕草をした後、こくりと頷く。

「うん。このオルゴール、すごく特別な曲が演奏できるから、それを使って練習すれば、○○もその曲を歌えるようになるんじゃないかな? オルゴールを相手に、歌合戦するの」

 歌子の最後の言葉に、○○の片眉がびくりと跳ね上がる。

 ──歌合戦? つまり、戦闘するの?

「いつもわたしと歌のべんきょうする時、そうしてるでしょ?」

 言われてみればそうなのだが……いつもの流れで考えるに、戦闘に勝たないと?

「曲は覚えられないと思う」

 それでもって、捩子巻きは?

「使い捨てだよ?」

「…………」

「どうしたの?」

 小首を傾げる歌子を暫く見つめて、○○は深々と溜息をつく。

 もしその紙片とやらが手に入っても、捩子巻きを黒星に関連付けてもらうのは止めた方が良さそうだ。

─End of Scene─





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