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剛力の歌劇場 |
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「おうい。ひさしぶりだな、とりひめのじょうちゃん。どんだけぶりよ」 紫色のオルゴールに捩子を差し込んで一杯まで巻き終えると、突然、オルゴールの蓋がばくんばくんと開き、その動きに合わせて中からしゃがれた声が湧き出てきた。 「ん。お久しぶり。もうどれだけ経ったかわすれちゃったけど」 「だろうな。こうしておれがおこされたってことは、なんだ。くろぼしのやつになにかみついだのか?」 「ううん。貢いだのはわたしじゃなくて、こっちの人」 「おう?」 がこんがこんとオルゴールの両端が上下に揺れて、○○の方へとその向きを変えた。どうやらこのオルゴール、自走できるらしい。 「みないかおだな。しんいりか?」 「うん。○○っていう。わたしと同じくらいに歌が大好きで、だからきみの“古の歌”が聴きたいんだって」 何か今、事実と異なる内容の発言があったような気がする。 「べつにおれがわざわざやらなくても、じょうちゃんならいけるだろうに」 「わたしだとやっぱり聞きかじりだから。こういうのは、ちゃんと曲の本当を知ってるきみからのほうが、○○も覚えやすいと思うし」 「おぼえやすいって、おぼえさせるきか? がくふでもないとむりだろ」 「そのへんはあっち」 歌子が手で指す方向には、別のオルゴールが一つ。空いた蓋からひょこりと身体を出した人形が、手に譜面と筆を構えている。筆には淡い輝きが灯って、何らかの超常的な力が宿っているらしいのが見て取れた。 「○○ときみ、あとわたしたちの歌の記録を、あの子に取ってもらうの。うまく○○の力がわたしたちに届いたら、きっと○○にも使える譜になると思う」 「しおりがどうこうってやつか。べんりなもんだねまったく」 呆れたような声音と共に、オルゴールの蓋がばふんと一際大きく上下する。人の仕草で例えるならば溜息をついたようなものだろうか。 「まぁなんでもいいや。おれのしごとはねじがまかれたぶんだけ、ねじからそそぎこまれたものだけ、きょくをかなでてうたうこと。こんかいのぶんだと、だいたいさんきょくってとこだな。それいがいのことはおまえたちがすきにしな」 オルゴールはそう言い捨てて、がこんがこんと己の身体を揺らして○○からある程度の距離を取ると、その場でぐるりと一回転。オルゴールの前面を真っ直ぐに○○に向けて、蓋を大きく開く。 他のオルゴール達とは違い、中には人形の姿は無く。ただ鉛色の管や金属棒、ぜんまい等がみっちりと詰まっているのが見えた。 「──んじゃ、いくぞしんいり。おれとならんでやろうってんだから、それなりにきあいいれろよ?」 言葉と共に、ぎちり、と。 オルゴールの中から、大きな歯車が一つ、はまり込む音が響いた。 そして次の瞬間オルゴールから放たれたのは、圧倒的なまでの音の奔流だった。 *** ○○の『剛力の捩子』が消費された! (戦闘省略) *** 「お、やるね。おれのきょくとごかくいじょうにやりあうか」 オルゴールから鳴り響いていた分厚い音の重なりがふつと失せて、ばくんばくんと蓋を開閉させながら朗らかに声を出す。曲を演奏する時には透き通るような女の声、太く伸びる男の声等を自由自在に発するくせに、何故こうして喋る時はしゃがれ声なのか謎だった。 「いまのはごうかくだな。そのちょうしでがんばってくれると、おれもうたいがいがあるってもんだ」 そしてがんがんと位置を整えるように胴体を動かした後、また大きく蓋を開いて、本格的に曲を奏でる態勢へと戻る。 「じゃ、つぎいくぞ。あとにきょくぶん、きあいいれてつきあってくれよ」 ─See you Next phase─ |
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