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現実歌舞伎町

 スズは、コマ劇場の柱に寄りかかり、携帯を眺めていた。
 いつもの薄汚れた作業服ではなく、かわいらしいコートに身を包んでいた。

スズ

 細いストラップの靴は、 スズの白くて細い足を一層華奢《きゃしゃ》に演出していた。
 初めて見る化粧をしたスズの瞳は、吸い込まれそうなほどに大きくて、 髪の毛もなんだかキラキラしていた。

 歌舞伎町の雑踏の中で、スズが一番輝いていた。
 誰もがその光に目を奪われ、振り返る。

 この雑踏で、いろんな人を見てきたけれど、 スズほど輝いている子なんて見たことなかった。

 そんなスズの待ち合わせ相手が僕だなんて!

 僕は誇らしげな様子で、スズに近づく。
 スズは、僕に気づいたのか、小さく手を振ってくれた。

 そんなスズの細い腕を、突然に握りしめる野獣の手。
 スズは、そいつにニッコリと微笑みかけると、 ぴったりとしがみついた。

 −−僕ではない、見知らぬ男に。
 40才過ぎの、金だけは持ってそうなオヤジだ。

 スズが手を振ったのも、待ち合わせしていた相手も、僕じゃなくて、 そのオヤジだった。

 オヤジに、薄っぺらい、にせものの笑顔をつくるスズ。

 やめてくれ!スズにそんな顔は似合わない。
 ヘドが出る!!

 スズとオヤジは、当然のように腕を組み、 極彩色の雑踏へ踏み出した。

「スズ!待ってくれ!!」

 思わず僕は叫んでいた。
 道行く人は、冷たい目、あるいは憐れみの目で僕を振り返る。
 スズが、ちらりとこちらを、にらんだ気がした。
 でも、スズはすぐに男へ微笑みかけ、 男の手を引いて先を急ごうとした。

 その場にひざまづく僕。

 −−この世界で、スズは歌舞伎町の“天使”だった。

 フラッシュ。白い光。記憶が混濁する。
 現実とも夢ともつかなかったあの時の新宿の記憶。
 あっちの世界で僕に起きたこと。

 −−その瞬間、僕は理解した。
 スズは知っていたんだね。
 向こうの世界に侵食された、この現実を。

 スズは、現実の自分を、僕に見せたくなかったんだね。

 むなしくて、つらくて、くやしくて、涙があふれる。
 涙をこらえるために、僕は天を仰ぐ。

 クリスマスのイルミネーションは、やわらかい光になってたくさんのビルに切り取られた歌舞伎町の夜空を包み込むような優しさで照らしていた。

 でも、僕が彼女に贈り、彼女が僕に贈ってくれた、 あの満点の星にかなう夜空なんて、どこにもない。

『あなたがここにいてくれて、ありがとう』

 メールの言葉が、僕の中でこだまする。
 そうだ。スズを幸せにできるのは僕だけだ。
 そのために、僕は、この世界に存在する。

 僕はポケットをまさぐる。
 あっちの世界で、僕が幸せを見つけるたびに、 こっちの僕が握りしめた“銀色の衝動”。

 僕は絶叫しながら、歌舞伎町の雑踏を走る。
 どこかの店から、あのメロディが聞こえていた。
 その曲は、クリスマスバージョンに変わっていた。

 ♪遠く離れていても、つながっているのかな?
 connecting mail
 着信音が
 connecting mail
 僕のもとへ君を
 connecting mail
 運びますように
 connecting mail
 メールが遠く離れたふたりをつなぎますように
 connecting mail

 ふたりで過ごしたクリスマスの夜
 今夜もう一度はじめよう
 たくさんの涙を白い雪に溶かして

 だから言うよ メリークリスマス
 君がここにいてくれてありがとう

 どれだけ走っただろう?
 気が遠くなるほどの長い時間、 スズを追いかけた気がする。
 それともほんの一瞬だったのか?
 時間の感覚が麻痺していた。

 スローモーション。
 僕の絶叫にスズが振り返る。
 スズと一緒にいたオヤジは僕の姿を見て、
一目散に逃げ出していく。

 また、ふたりきりになれたね。
 僕は、スズのために笑顔を贈った。

 スズはおびえた目で僕を見つめて、小さく震えていた。
 僕は、そんなスズが愛しくて、守りたかったんだ。

 スズ、もう、おびえなくていいよ。
 今、僕がスズを助けてあげる。

 僕は荒い息を整えて、極上の笑顔をつくる。

「−−はじめまして。また会えたね」

歌舞伎町

 −−そして、僕とスズは、永遠を巡る旅に出たんだ。

 コマ劇場前には、人だかりができていた。

 薔薇色の海の中心で、僕とスズは抱き合いながら横たわっている。
 海域がじわじわと広がるにつれて、 僕の意識は遠のいていく。

 闇におちる僕。
 遠くで、いつものメロディが鳴っていた。

[フラッシュ表示時フラッシュ挿入]
※フラッシュ表示時以下なし

 でも、これからはあのメロディに 僕たちだけのリリックをのせる

 ほら、遠く離れてても、つながってた

 この世界では、まだ戦争が続いてて 明日のこともわからない

 だけど、確かなことがひとつだけある。いくつもの可能性をくぐり抜けて

 今、僕の腕の中に、君がいる――
  

『THE END』


歌舞伎町


−End of Scene−


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