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ファミリオ

「エルニノ!」

 声の方向に駆けだした。
 何度も足がもつれたけれど、必死で走った。

      ***

 集落のみんなが集まっていた。
 輪の中心に、イオが血を吐いて倒れていた。

「イオ――!」

 リュウシンが駆けよって、イオの身体を抱きしめた。

「早くお医者さんを!」

“コギト”の一員でウルスラという名の女性が、 目を閉じて静かに首をふった。

「もう、息はないわ。紅死病よ」

「――!」

 紅死病。それは“大戦”のさなか、突然流行りはじめた死の病。
 感染者は何年もかけて身体をむしばまれ、血を吐いて死ぬ。
 ワクチンを接種していれば予防は可能だけど――高額なワクチンを買えるのは、 聖職者や一部のお金持ちだけだ。

「イオ、イオ――」



 ちいさな亡骸を抱きながら、リュウシンがむせび泣いた。

「そんな――」

 目から涙があふれてきた。

「ねえ、セルリア! イオは眠っちゃったの?」

 エルニノが駆けよって目を丸め、不思議そうに小首をかしげた。

「……そう、永遠にね」

「そっか。じゃあ、もういっしょに遊べないね!」



 エルニノはにっこりと、なんの屈託もない笑みを浮かべ、 たたたと走りさった。

 ――え?

 突然、背筋を雷で打たれたような感じに襲われて、 そばにいたモルトの顔をみあげた。
 彼はわたしの心中を察したかのような表情をみせ、 こくりとうなずいた。

「……エルニノは、哀しみという感情を知らないんだ」

 彫りの深い顔が、いっそうけわしくなった。 モルトは彼の知る真実を、静かに語りはじめた。

─End of Scene─







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