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エルベ・スーケン第一パーチ

 ○○は三枚目の探求者と契約する事にした。

「正直あたし、あんまやる気ないのよね、この仕事。 金の為にやってるだけだし」

 開口一番。
 ナタリーという名の女性は、言葉の通り億劫そうな顔で○○にそう言った。

「一応、お金払ってくれるならあんたが怪我した時治してあげるけど、あたしがやるのはそれだけね。化け物を剥いだりとか地べたはいつくばってモノ拾うのとかお断り。汚いし」

 彼女の発言に、○○は貰った資料に書かれていた契約料の額を思い出して納得する。

 禁領探索では、計画を完遂しても宿木から報酬としての金は支払われない。禁領内で得た素材を金に換えることで漸く収入を得るが、当然その額は得られた素材の数や質に影響される為、時には探索計画の契約料にも満たない額になる事もある。

 だから確実に一定の金銭を得られ、何より素材を得る行動をしなくても良いこの共同探索をこの女性は選んだのだろう。

(……けれど)

 そもそも、こんな回りくどい事をするくらいならば他の仕事でもすれば良いのではないだろうか。

 確かにナタリーが共同探索の契約料として提示しているのは結構な金額だが、禁領探索のリスクとして釣り合っているのかどうかは怪しいところだろう。

 資料に記載されていた情報が本当の事であるならば、彼女の治癒術士としての技量は相当のものだ。探求者でなくてもその技術一つで生きていく事は容易いだろうに。
 ○○のそんな疑問に、ナタリーは「はぁ?」と首を傾げて、
「馬鹿ね、ちゃんと読みなさいよ。あたしの治癒術法は陰性因子由来なのよ。ちゃんと書いてある筈よ」

 言われて手元の紙束を見直し、気づく。

 資料の最下部に記載されていた一行──但し上記の術法効果は禁領内に限る。

「探求者には結構居るわよ? そういう人。禁領の中でだけ、術法とか、能力とか。そういうのを発揮できるタイプ。何だったかな。因子経路異常とかそんな事を前にパーチに来てた学校の賢い人がいってたけど。あたしもその部類で、探求者じゃなけりゃ何の力も後ろ盾もないタダの女って事」

 だから我慢して続けてんの、とナタリーは溜息をついた。

「今あたしが契約料として貰うお金を普通に働いて稼ごうとしたら、一回分貯めるのに半月はかかるわね。色々無理したらもう少しは短縮できるかしら? まぁ、一人ならそれでも良いんだけど、今は身内が二人も増えちゃったし。子供が働けるようになる間くらいは、マシな生活させてあげたいでしょ」

 子供。
 既婚者で、子供までいるのか。言われてみるとそう見えなくもないが。

 と、じろじろと身体を眺める○○の視線に気づいたのか、ナタリーは数度眼を瞬かせて、くくと喉を鳴らすように笑う。

「あたしじゃなくて相手の子供よ」

 相手の子供──旦那さんの連れ子、とかなのだろうか?

「旦那じゃなくて嫁だけれどね。子供はこの前生まれたばっかり。出会って寝取る前に孕まされてたから、流石のあたしも手の打ちようがなくてね。まぁ、結婚前に掻っ攫えたから良しとしましょう。子供もかわいいし。流石あの子の子だわって感じで」

「? ……??」

 なんだか、言っている事が微妙におかしいような……?

「で、あたしと契約するの?」

促されて、○○は混乱したまま取り敢えず彼女と契約作業を行った。

「それじゃ、禁領入る時にはあたしに声を掛ける事と、お金の準備を忘れずに」

     ***

 この契約で、三人目。
 これ以上の契約を一度に結ぶ事は出来ない。
 ○○は共同探索契約を切り上げ、別の行動を取る事にした。

─End of Scene─






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