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エルベ・スーケン第一パーチ

 〇〇は一枚目の探求者と契約する事にした。

 パーチ中央の大建物最下。食堂や休憩、情報交換の場も兼ねた、階層一つぶち抜きで丸々使用した大部屋の隅に、ぽつんと鉄の塊が座っていた。
 話に聞いた限りでは、この塊が守備騎士であるという女性、テレーズらしい。

 守備騎士は、あらゆる外敵から人々を守る絶対の守護者。鉄壁の前衛。そういう役どころだ。
 それを完璧にこなしてみせるには、どうしても身体の大きさというものが重要になってくる。要は“体が大きい者は強い”という、原始的な心理を敵味方に与えられるかどうか。これは戦闘時での極限状態に於ける味方の士気や、多少の知恵を持った野生動物に対しての威嚇、牽制の成功率に大きく関わってくる。
 結果、男性と比べるとどうしても小柄な存在である女性は、守備騎士としての適性には欠くと判断される事が多いのだという。
 個人の戦闘技量などとは関係のない、単なる身体の大きさの差。しかしそれは守備騎士が担う役割に於いては、かなり重要なウェイトを占める事柄でもあった。

 そんな中にあって。
 今目の前に居る塊──敢えて言うなら小さな塊は、女性の守備騎士であるらしい。

「…………」

 近づいてじっくりと観察してみる。
 遠目からでは鉄の塊に見えたそれは、室内にある他の椅子とは造りや素材からして違うとても頑丈そうな椅子を、思い切り撓ませながらちょこねんと座っている人間である事が判った。
 全身鎧。しかも、行動力を完全に捨てて、代わりに対貫通衝撃特性を得るために空間や曲面の多い構造を選んだ結果、まるで玉をくっつけたような外見となった防御一辺倒の鎧だ。胴部から突き出た手と足も太いというよりも丸く、機動性が皆無である事は容易に窺えた。
 そしてそんな鎧を着込んだ人物の背丈が、かなり低い。丸々とした鎧の形状も然ることながら、この背の低さが彼女を人ではなく塊と〇〇に認識させる大きな要因となっていた。

 と、丸々としたその姿の上部に引っついていた兜らしきものが動いて、正面部分がこちらに向く。

「何かごようでしょうかー」

 兜の面部分に入った縦線の隙間から、こちらに向かって声が飛んできた。兜内で反響した声は独特の響きを持っていて、酷く間延びしている。
 篭《こも》った声は幾らか質が変化していたが、性別くらいは読み取れた。この丸々とした鉄塊の中身は確かに女性、らしい。

 しかし、

(……果たして彼女を誘っていいのだろうか)

 一瞬逡巡した〇〇であったが、次の瞬間には「まぁいいか」と腹を括る。
 〇〇は彼女の兜の隙間に契約用の資料を見せて、彼女に自分との共同探索の話を持ってきた事を告げた。

「あ、自分と一緒に行ってくれるんですかー? うれしいですー」

 すると、テレーズは浮かれた声と共に兜だけでなく身体ごとこちらに向いた。
 拍子に、彼女の鋼鉄の尻に敷かれていた椅子がグギギシリという断末魔の如き悲鳴を上げるが、テレーズは全く気づかず〇〇が差し出していた資料を鉄に覆われた小さな手で受け取り、テーブルに広げる。

「それじゃ、自分が必要な手続き、早速やっちゃいますねー」

 言って、止める間もなく作業を始めるテレーズ。別に問題は無いか、と〇〇は彼女が作業を終えるまで隣で見守る事にした。

(……にしても)

 鉄の篭手を嵌めたまま厚紙を捲るとは、器用なものだ。

「守備騎士たるもの、鎧を身に纏った姿こそが常態ですからー」

 眺めていた〇〇が何気なく呟いた言葉に、テレーズからはそんな言葉が返ってきた。つまり常日頃からこの格好で生活しているらしい。
 苦労する事も多いだろうに、守備騎士とやらの心構えを常に忘れず、これを当然とする姿は中々に立派なものだ。
 〇〇がそう言うと、しかしテレーズは少し手を止めて嘆息をしてみせる。

「でも、共同探索の依頼は多くないんですよねー。やっぱり、女子で守備騎士っていうのは頼りないって思われちゃうんですかねー?」

 と、疑問符をつけられても、〇〇は彼女が女性の守護騎士だと知っていた上で共同探索の話を持ってきた人間だ。彼女を敬遠している者達が、テレーズという人物に対しどういう評価を下しているかなど、無責任な予想は出来ても真実は判らない。

 ただ、まぁ。

「たまにそれらしい人が近寄ってきてくれても、『共同探索の契約ですかー?』って聞いたら、『いえ、何でもないです。その鎧凄いですね』とかいわれちゃってー。皆さん鎧は褒めてくれるんですけどねー。守備騎士用の特注品で、自分の宝物なんですよー」

 あははー、と宝物を褒められて嬉しく、しかし自分は見てもらえず寂しいという曖昧な笑いをしてみせる彼女だが、残念ながらそれは多分鎧を褒められていない。

(女の子がどうこうというより……)

 その丸々とした見た目──守備騎士の鎧とやらに問題があるのではないだろうか。
 そう突っ込みたい衝動に駆られたが、うきうきと手続き作業を行うテレーズに、彼女の誇りでもあるだろう鎧を貶して水を差すのも躊躇われ、〇〇は悶々としたまま彼女の作業が終わるのを待った。

 さて、続いてどうしよう。

─See you Next phase─






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