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第2調査区跡 |
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なんとなく人目を気にしつつ、廃棄されたはずの第2調査区へと足を向けた。 ホールから続く通路を抜けた先で待っていたのは、岩壁に黒く半円形の口を開けたトンネルだった。 他に見るべきものも無いことから、本当に班長がいるとすればこの中ということになる。 意を決してトンネル内に足を踏み入れると、生暖かい淀んだ空気が身体を包んだ。 先は暗いが、全く見えないこともない。内側の壁にはかつてランタンを掛けていたと思しき金具があったが、今は何の用も成してはいなかった。 幾らも進まない内にホール方面から届く光はすっかり弱くなり、更に進むと時折妙なコケが発する青白い光だけが目印となった。 本当にこんな場所に班長がいるのだろうか。少々不安になってくる。 ただ、分かれ道が現れたときには必ずぼんやりと光るコケが進むべき方向を示しており、誰かが意図的にコケを“設置”した事実を匂わせた。 実際は単に自生しているだけなのかも知れないが、とりあえずその可能性は却下する。実はこの廃トンネルには誰もいない……などと考えたくはなかった。 湧き上がってくる不安を抑えつつ、何故だか息を潜めて無心に主道らしきものを進んでいく。 *** 歩き始めてからどれくらい時間が経っただろう。 前方に黄色がかった灯りとゆらゆら揺れる大きな人影が見えた時、〇〇は思わず安堵の声を漏らしてしまった。 「うおおっ! びびらせるなよ!」 大げさに驚きながら振り返ったのは、やはりバンダナの男『班長』だった。 彼の足元に置かれたカンテラが、その動作を更に誇張してトンネルの内壁に映し出す。 「ふー、心臓に悪いぜ。俺がここに居るのを知ってる奴はいても、わざわざ見に来るなんて奴は皆無だぞ。で、何の用だ。いやまて、大体判る。どうせ俺が何をやってるのか気になったんだろ。他に用事なんて無いしな」 班長がにやりと笑って、その場にあぐらをかいた。 「そうだな……まず、ここ第2調査区は随分昔に猫さん連中によって廃棄が決定された、ってのは知ってるか。その理由は一切カプセルが出土しなかったから――とされているが、実は違う。少なくとも俺は別の理由があると踏んでいる」 〇〇の反応を見るように、班長が一旦言葉を区切った。こちらとしても少し興味をそそられる。 「結論から言うと、ここは多分“地上に続くトンネル”だった場所だ。つまり、発掘作業を進めていくと、やがて外へとたどり着いてしまう。そうなったら収容者は逃げ放題で大変だ。さて、ここまで言えばもう判るだろう」 〇〇の得心したような顔を見て班長は頷き、声を落として先を続けた。 「俺は……脱獄を狙っている。それも一人や二人で逃げ出すチンケなやつじゃない。収容者全員を一夜にして解放するミラクルな脱獄だ。普通なら絶対ありえない非常識な計画だが、管理側が猫の脳しか持たないここなら出来る。マジでな。脱獄が成功した暁には、有志を率いて黒猫商会を滅亡させてやろうと思う。どうだ、アツイ計画だろう」 抑えながらも興奮した面持ちで班長はそう言った。冗談にしか聞こえない内容ではあるが、彼の目は真剣そのもだった。 「まぁ先のことは判らないが、なんだかんだ言ってもまずはトンネル開通からだ。かれこれ1年近く掘り進んできたから、そろそろ地上にたどり着いても良い頃だろう」 (……1年?) 「おい、帰ろうとするなよ? せっかく来たんだからまぁ手伝って行け」 不審な気持ちが顔に表れたのか、班長が慌てて立ち上がる。 ひょっとすると、うっかりとんでもない場所に来てしまったのかも知れない。 「心配するな、ナチュラルな岩壁に道をぶち通すわけじゃない。元々トンネルだった場所を掘り返すだけだ。実は似たようなものかも知れないが、幾分ましだろう。邪魔になった瓦礫は適当に脇道に放り込め。……あ!」 作業を再開しようとした班長が突然、手を止めて耳を澄ますような仕草を見せた。 「重要なことを言い忘れてたなぁ……時々馬鹿でかいミミズの通り道に当たったりするんだが、そんなときは連中の空けた大穴の分だけ手間が省ける。ラッキーだろ?」 班長の言葉が終わらない内に、ぞぞぞ、という低い音がどこからか響いてきた。しかし、トンネル内での反響もあって音の方向が上手くつかめない。 次第にそれは音というよりも振動として感じられるようになり、目の前を埋めた土砂の壁がぱらぱらと崩れ出した。 「問題はそいつらが襲って来るってことだ。後は任せるぜ!」 土中のお邪魔虫 戦闘省略 *** 「よーし、よくやった! なかなか頼りになるじゃないか」 後ろで応援だけしていた班長が歓声を上げた。 「さて、キリも良いのでそろそろホールに帰るとするか。今日はそれなりに進めた感じだな。次もまたこの調子で頼むぜ」 言って班長がランタンを手に取り、さっさとトンネルを戻り始めた。 次……が、まだあるのだろうか……。 ─End of Scene─ |
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