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コネクティングメイル001


 群書は既に足を運んだ。ならば次は単書とやらを覗いてみるのも悪くは無いだろう。
 そこは准将曰く『簡単』な世界であるらしい。ならば、そう危ない事にはなるまい。
「了解した。しかし、本来ならば群書の管理を行うこの場所で、誰かを単書へ挿入する事になるとはな」

 准将は苦笑混じりにそう呟いて、長机の上に手にした本を置くと表紙を開く。そしてこちらに向かって手を差し出 しかけたところで、何かに気づいたようにぴたりと動きを止めた。
 一体どうかしたのか。〇〇が片眉だけを寄せて問うと、准将の硬質な口がかくかくと上下して声を発する。

「……お前さんにひとつ尋ねるが、上のお嬢ちゃんから“同期記名”という事柄について、聞いているかね?」

 〇〇は素直に首を傾げた。准将の言う“上のお嬢ちゃん”とは、恐らくツヴァイの事だろう。
 彼女との会話にそんな単語があったかな、と頭の中を軽くひっくり返して、そして直ぐに諦めて肩を竦めた。
 そもそもあの黒ドレスの少女は話し方がどうにも良くないというか、一言でいえば冗長なのだ。正直まともに聞いていなかった。

「それを本人には言わないようにな。あれで意外と気にしている節がある」
 率直な〇〇の感想に、准将は窘める言葉を選びつつも、しかしその両眉は楽しそうにかくかくと震えていた。

「ならば、自分が手短に説明しておくとしよう。書に存在を挿入する時、その挿入方法は二つ存在する。 非同期記名と同期記名だ。この同期という言葉が何を指すかといえば、それは単書に存在する人物── 主に物語の主人公として設定された人物に、己の存在を重ね合わせるから同期。簡単に言えば『なりきり』 という奴だな。これは“物語”を基盤とする単書でのみ可能で、今回お前さんが行う記名はこの形となる」

 逆に非同期記名は、あくまで自分という存在をその書の世界へと実体化させる方法。 群書では非同期記名しか出来ないのに対し、単書は非同期記名と同期記名のどちらかを選ぶことが出来るのだ、と准将は言葉を続ける。

「もっとも、今お前さんが選んだ本は同期記名専用であるがね。確か……海辺で釣りをする若い男が主人公で、 記名する場合はその人物と同期する事になる」

(……海辺で、釣り?)


 この本の主人公は釣り師か何かなのだろうか。 となると、釣り道具でも揃えて入った方がいいのか?
 ぶつぶつと呟きながら考え込む〇〇に、准将はぼふぼふと 口から煙を吐いて首を振る。

「いやいや。私もあくまで最初の最初の場面を軽く覗き見 た程度。実際そういう話かどうかはまた別だ。その辺りは 、実際入ってみれば直ぐに判るだろう。先程も言ったが、 単書は“本に書かれた物語の主人公になりきって愉しむも の”。だから、先についての話は言わば種明かしのような ものだ。口を噤むのが正しい──ただ」

 錫人形はそこで言葉を切ると、どう話すべきかと 迷うように、己が吐き出した煙を僅かな時間目で追 ってから視線をこちらへと戻した。

「一括りに単書といっても色々あってな。本それぞ れに所謂“縛り”がついている場合がある。先程言 った同期記名専用とかもその一つだな。それで、こ の『コネクティング・メヰル』には更に幾つか縛りがあって な。この本、演出の一環なのかは知らんが、どうも 章間まで話を進めないと本の外へと出られない仕組 みになっている」

 ……それは非常に恐ろしいというか、ある意味欠 陥本なのではなかろうか。
 顔を僅かに引きつらせた〇〇に、准将は安心しろ と両手の平で押さえる仕草。

「まぁ、所詮は単書だ。多少時間は掛かろうとも、物 語ならばいつかは読み終わるもの。そう不安に思う必 要は無い。だが、下手を打つと中々出られないという 事もあるかもしれん。長期の同期記名から個を護る“ 挿入栞”がある今ならばその事自体に危険は無いが、 お前さんにも都合というものがあるだろう」
 准将は大柄な彼に合うように作られた椅子に腰を下 ろすと、長机の上に置かれた本を一度撫でてから、〇 〇を見上げる。
「だからこの事を踏まえて、改めてこの本に仮記名す るかどうかを決めるといい。構わないなら、お前さん の持つ“挿入栞”をこの本に差し込んでくれ。後は自分が本の世界へと送ろう」


─End of Scene─


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