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冒険の基本


「判りました。では、冒険の基本的な流れについて御話ししましょうか」

 小さく頷いたツヴァイに、○○は一つの疑問。
 黒板の一番上に書かれていた項目、更に基本という文字が躍っていることから、 恐らくこれが最も最初に聞いておくべき話だと思ってこれを選んだのだが── 何故“冒険”なのか。
 普通に、生活の基本とか、仕事の基本とか。 見合う表現は他に色々あると思うのだが。

「それはですね。簡単に言うと“迷い人”は“群書世界” では安定した職につきづらいから、ですわね。 その世界で日々の糧を得る場合は、基本的に行きずりの、 少々リスクの高い仕事をこなす事になると思いますので、ここでは冒険、と」

「…………」

 そんな社会不適合者みたいな扱いをされても。
 思わず半眼になる○○を、ツヴァイは平然と見返して。

「勿論理由はありますよ。当たり前の事ですが、 迷い人は群書世界に置いては誰もが余所者──素性、 後ろ盾というものが存在しません。だから、 信用され辛い分、扱いは良くないと思います」

「…………」

 言いたい事は判った。確かに、 何処のものとも知れない人間を無警戒に雇う人間も少ないだろうし、 雇うとするなら相手側が余程切羽詰っているか、 人が寄ってこない仕事である可能性が高い、という事だろう。

「そういう事です。それで、ええと……そうですね。基本と言いますか、 一先ず群書に入ってからやるべき事を並べておきましょうか」

 手にした白い棒で、黒板にかか、と音を立てつつ文字を書く。

「まず、情報収集。ここがどういう場所か。何があるのか。 それを把握しましょう。群書世界によっては独特のルール、 タブーのようなものが存在する場合もありますから、 情報を得る事は非常に重要です。“箱舟”から群書へ栞を挿入した場合、 こちら側が本に対して楔《くさび》── 目印のようなものを打ち込んだ場所を基点として本の世界に実体を持つのですが、 この楔は主にその世界に存在する街周辺に打ってあります。 だから実体化した時に街中か、 もし街中でなくとも少し辺りを歩き回ればすぐ街が見つかる位置に居ると思いますので、まずはその街を拠点として動くのがよいでしょう」

 半円のような記号から矢印が飛んで、何だかでこぼことした良く判らない記号へと突き刺さる。ツヴァイはどうも絵心がないのか、半円の隣に“箱舟”、凹凸に“街”という文字が継ぎ足されないと、それが何なのかさっぱり理解できない。

「次に、食糧を押さえる。衣や住は多少不安定でも何とかなりますが、食だけはそうも言ってられませんので。欠かせば、動くこともままならなくなります。食料は街での購入という手もありますが、始めは街の近辺でお金をかけずに食糧を手に入れられる手段を探した方が良いでしょうね」

 食事を欠かすと、持久力がどんどん損なわれる。お腹が空けば力も出ず、 満足に動く事も難しくなる。特に戦闘となった場合の影響は顕著で、 空腹になればなる程動きが鈍くなってしまう。
 故に、食糧の現地調達が難しい場所へ長期間出かけるなら、 先に十分な食糧を確保してから向かうべし、という事らしい。

「場所によっては安全で、自然豊かな地域もありますので、 そういった所ならば完全な自給自足も可能でしょうね。まぁ、 逆に街の外が化け物だらけのような世界もあるのですが、それはそれで、 その化け物の肉が食糧になったりもします」

 化け物。
 なにやら、物騒な単語が出てきた気がするのだが。

「群書世界にもよりますが、色々居ますね。普通の獣が奇形化したものから始まって、合体したり、腸に三本足のついたような良く判らないものから、果ては竜まで」

 かつかつと白い棒を走らせて、ツヴァイが言葉と共に黒板に絵を描いた。 蜥蜴なのか何なのか良く判らない生物の隣に書かれた「がおー」の文字が微笑ましいが、その隣に並んだ腸のような化け物が妙にリアルでギャップが激しい。

「とはいえ、化け物といっても様々です。人の手では到底太刀打ち出来ないような存在から、逆に少し戦いの心得があれば容易に倒せる相手まで。彼らと対峙する場合は、その見分けが出来るまでは、なるべく弱そうな相手を選んだほうが良いでしょうね」

 基本的に、人里の近くに出没するような化け物は弱く、 奥地ほど手強くなる、という事らしい。
 当然といえば当然の話だ。余程の事情が無い限りは、 人の手に負えないような化け物がいる場所で暮らそうする者など居ないだろう。

「あとは、収入源の確保でしょうか。○○さん達の立場は良く言えば旅人、 悪く言えばごろつき予備軍ですから、人里での扱いはあまり良くないと思います。 先程話した通り、最初のうちは良い仕事を見つけることも難しいでしょう。 ですので、街などで仕事を見つけられなかった場合は、 自分の力だけで収入を得る必要があります」

 と言われても、どうすればいいのやら。 ツヴァイは○○の途方に暮れたような顔を見て、 自分の顎に手を当てて、少し考える仕草。

「んー、例えば、誰も入り込まないような場所へと向かって、 珍しい品を手に入れるとか、懸賞金の掛かった存在を倒すとか。 害獣の駆除や、鉱石採掘、植物採取。 それを高く売り払うルートの開拓も重要ですわね。 犯罪に手を染めるという手もありますけれど、 長期的な視点で見るとあまりお勧めはできませんね」

 何だか、本当にやくざ者というか一発屋のような生活に聞こえる。
 思わず零れた呟きに、ツヴァイはにやりと笑い、

「正直に言っちゃいますと、ズバリそうです。 ある程度迷い人としての生活に慣れた方々は、 このスタイルで暮らしていらっしゃる場合が多いですね。 何でも、他の群書世界で手に入れた品を、別の群書世界に輸入すると凄いとか」

 そんな事をして大丈夫なのか。何だか、 色々とボーダーレス過ぎる行動のように見えるのだが。
 ○○が感じるまま言うと、ツヴァイも少し難しい表情。

「本当はあまり大丈夫ではないのですけれど、群書固有の強い力を秘めた品等は、 その世界との“縁”が強く結ばれていますから、 そこを離れると力を失う場合も多いですし。精々希少品か、 ただのガラクタ扱いか。その辺りの目利きも慣れの一つなのでしょうね。 あとは、迷い人同士での取引も収入を得る手としては悪くないと思います」

 そういえば、自分以外の迷い人とやらはどの程度居るのだろうか。

「……数は、どうだったかな。そう多くは無い筈ですが、 それなりの数はいらっしゃいますね。あと、その方が迷い人かどうかは、 恐らく出会ってみれば直ぐに判ると思います。 貴方がたの持つ栞が相応の反応をしますし、 パーティリンクが可能ならば完全に当たりですね」

 また変な言葉が出てきた。
 パーティ……何? と○○が渋い顔で呟くと、 ツヴァイは黒板の隅に四つの棒のようなものを円で結ぶようなものを描いて、

「パーティリンクです。栞同士を同調連結させる機能ですね。 最大四人までで構築可能で、パーティを作ると栞を介して細かい情報の共有や、 共同動作時の連携行動等がスムーズに行えます。 相手が迷い人でなくても擬似構築が可能な機能でして──」

 と、そこまで話して急に言葉を止めると、ツヴァイは少し視線を外して咳払い。一緒に、書きかけていた図も消してしまう。
 どうやら、いつもの脱線癖が始まった事に自分で気づいたらしい。

「と、御免なさい、話を戻します。他は……ええと、そうですね。出来るならば、その世界で何らかの立場を得るか、組織や集団に属するのが良いと思います。これがかなり重要で、後ろ盾があるかないかでは立ち回りが大きく変わります。たとえ短い期間でも、これがあるとないとでは色々と出来ることが違ってきますから、もし運良く群書に挿入して直ぐに何処かへ所属できそうなら、余程でない限りはそのまま入ってしまったほうが良いでしょうね」

 それはそうだろうが、そう話が上手く進む訳も無いような。
 ○○が冷静にそういうと、講師役は苦笑しつつ頷く。

「ええ。ですから、出来ればの話ですね。後は──もう、○○さんのお好きなように。富を望むも、力を望むも。平穏に生きるか、波乱と共にあるか。全て○○さんが選ぶ事ですが、やはり最低限、自衛の為の力は身につけた方がいいかな。無抵抗主義を貫くつもりでないならね」

 しかし、何というか最初に冒険の基本であると言っていた割には、普通に群書で生きていく上での基本のような話になっている気がするのだが。

「でしたら、次はちゃんと冒険の基本を実践してみましょうか」

 ツヴァイはにっこりと笑うと、○○へと右手を差し出し、指を鳴らす。
 瞬間、また世界がずるりと変化した。

 いつの間にか、○○は何処かの洞窟のような場所に一人、ぽつんと立っていた。
 突然の変化に唖然《あぜん》とする○○の耳の奥に、ツヴァイの声が響く。

『今回の冒険──クエストの設定としては、危険な怪物が棲み着いて放棄された坑道へとやってきた○○さん、目的は希少鉱石の獲得。そんな風なシチュエーションでいってみましょう』

 言われてみれば、今居る洞窟は所々に人の手が入っているような跡があり、 道端には若干錆びついたつるはしが一本転がっている。

『取り敢えず、そのつるはしをどうぞ。一応、武器にもなりますから、 群書世界等で武器を手に入れていない場合はそれを装備してみてください。 ただし、つるはしを壊しちゃうと掘る手段がなくなっちゃいますからクエスト失敗ということになります。あと、装備の仕方が判らない場合は……もう素手でいっちゃってください』

 失敗しても成功しても何か大した事がある訳ではありませんから、 その辺りは気楽にどうぞと、続く。これはあくまで練習、そういうことらしい。

『練習といっても、もし戦闘になったら武器防具は普通に劣化しちゃいますから、 それが嫌なら事前に脱いでおいたほうが良いでしょうね』

 その言い分だと、ここで戦闘も起き得るという事か。
 ○○が僅かに緊張の混じった声で問い質せば、

『設定では、“危険な怪物が住み着いた”という事になっていますから。 まぁ、その怪物はかなりのんびりしていますから、 ○○さんが同じところに長く留まらなければ遭遇しないでしょうけれど、他にもちょっとした肉食獣程度は住み着いているかもしれませんね』

 などと言いながらもツヴァイの口調は何処か緩んだ感じだ。この坑道と化け物とやらを配置したのが彼女であるなら、何処に何が居て、それがどの程度の強さなのかを把握しているのだろうから、それも当然といえば当然かもしれないが。

『今○○さんが居る十字路から、四方四箇所に採掘ポイントがありますので、ここだと思うところで掘ってみてください。つるはしは元がボロなので、あまり何度も採掘はできないでしょう。当たりが出ればクエスト成功、その前につるはしが壊れてしまうか、戦闘に勝利できなかった場合はクエスト失敗。この小さな世界で、“つるはし”と認められるのは『レクチャーピック』だけ。──こんな所かな。では、張り切っていってみましょう』

☆○○はレクチャーピックを手に入れた!

─See you Next phase─




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